COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。

最終更新日:2022/12/15 セミナー再配達

再配達問題を今一度考えてみる【後編】

最終更新日:2018年4月23日

ロジザード株式会社代表の金澤が、東京・大阪で開催された「ロジザード物流セミナー 2018春」で語った再配達問題。前編に引き続き、後編では課題解決のヒントとなり得る、中国における物流の現状と最新の取り組みについてご紹介します。(このコラムは当セミナーで話した内容です。)

7516792816_IMG_0615.JPG

「受益者負担の原則」が貫かれていない再配達サービスは無くすべきである、というのが私の考えですが、本当にそんなことができるのでしょうか? 私は中国に行く機会が多いのですが、中国には再配達サービスがありません。ここに課題解決のヒントがあるのではないか、という話をしたいと思います。

「受益者負担の原則」が貫かれていない再配達サービスは無くすべきである、というのが私の考えですが、本当にそんなことができるのでしょうか? 私は中国に行く機会が多いのですが、中国には再配達サービスがありません。ここに課題解決のヒントがあるのではないか、という話をしたいと思います。

中国における宅配の実情

今、中国ではご存じのとおり、阿里巴巴(アリババ)や京東(ジンドン)などのモールを中心に、通販事業が活況を呈しています。2017年の中国における宅配個数は400億個を超えており、日本の10倍です。この膨大な数の荷物を、彼らはどのように届けているのでしょうか。

配達員が危機的レベルで不足しているのは、実は中国も同じです。背景には、2015年頃に登場したケータリングアプリの爆発的な成長があります。アプリで注文をすると、配達員が一般のレストランやファストフード店から食事をデリバリーしてくれるサービスです。

宅配の配達員の給与ですが、今の相場は1個につき約3元、100円弱といったところです。しかも不在で渡せない、長時間労働になりがちといった問題もあり、もともと不人気な仕事です。一方、ケータリングは同じ「届ける」仕事ですが、在宅率はほぼ100%。朝・昼・晩とボリュームゾーンが見えるため、宅配の配達員に比べるとすごく楽なのです。さらに、デリバリーアプリを浸透させるためにドライバーの給料が優遇されています。1個につき5~7元という、宅配配達員の約2倍の給料が先行投資として支払われています。これにより、例えば上海では、従来は宅配をしていた約40万人の配達員が一気にケータリングへと流れたと記事にありました。

宅配のドライバーは、こうした背景もあり減少しています。もちろん再配達はしません。届けた個数に応じた報酬体系のためあまりにも割に合わないからです。したがって、荷物が軒先に置き去りにされるようなことも頻発しています。


一般消費者はどう受け取る?

では、一般消費者はどうしているのか? 当社の社員に聞いてみたところ、まず、「確実にいるところに届けてもらう」ために、職場で受け取るケースが多いようです。本人が不在でも、受付などに預けることで本人の手に渡ります。宅配ロッカーは都市部を中心に10万件ほど設置されていますが、あまり浸透しておらず利用していないとのことでした。セキュリティーが厳しいマンションや学校の場合は、配達員が敷地に入ることが難しいため、近くの快運代収点(カイウンダイシュウテン)という受け取り代行サービスを利用します。マンションや学校の前に拠点を置き荷物を預かるサービスで、消費者は2~3元の手数料を払って、荷物を受け取ります。

快運代収点は宅配業者と契約したフランチャイズのような業態で、配達員が荷物を届けに行った先が不在の場合、代収点から「この快運代収点に預けたので取りに来てください」と消費者に連絡が来る仕組みになっています。しかし、快運代収点の問題は、とにかく荷物の管理がずさんなこと。自分宛の荷物を探すのに1時間もかかったり、誰がどの荷物を受け取ったかが管理されていないため、商品を他の人が持っていってしまったりすることがあります。誤配達同様、こうしたトラブルは阿里巴巴などのモールに対するクレームとなっているようです。

こうした対策として中国で始まっている、あるEC物流改革についてご紹介します。


中国企業・チャイニャオ(菜鳥)の取り組み

ご紹介するのはチャイニャオという会社の取り組みです。チャイニャオは、阿里巴巴、銀泰集団、復星集団、富春集団、物流企業4社(申通、円通、中通、韵達)、投資ファンドの春華資本、他金融機関などが出資して、2013年に中国深セン市に設立されました。阿里巴巴グループの物流子会社というイメージです。総投資額は3,000億元、日本でいえば資本金5兆円の会社で、その豊かな資金をもとに、企業ビジョンである「デジタルロジスティック」=IT物流改革を進めています。

チャイニャオの事業の一つに、チャイニャオ・ステーションがあります。今回の再配達問題に絡んでくる事業です。チャイニャオ・ステーションは、快運代収点と同じ機能を担いながら、その管理をITで非常に高度化したプラットフォームとイメージしていただくとわかりやすいと思います。2017年末で、全国に約45,000カ所設置されています。

阿里巴巴で購入された荷物を届けた先が不在だった場合、配達員はチャイニャオ・ステーションに届け、その情報を受取人に送り、受取人は自ら指定されたステーションに取りに行くという流れができています。それだけでなく、ここでは商品の返品の受付も行います。そして商品が返送されてから返金されるのではなく、ステーションに商品を受け付けた段階で返金されるという仕組みです。消費者にとっては便利ですし、同時に、配送会社にとっては集荷コストが削減されます。商品を販売する阿里巴巴含めて3方お得な仕組みをコンセプトとして設計するところが、中国はホントに上手だなと思います。

ちなみに、返品時の送料は原則自己負担ですが、中国ではで偽物や品質上の問題が多く、返品コストを恐れて購入を躊躇する消費者もいます。しかし現在は「通販返品保険」が登場し、注文の際に0.5元でこの保険に加入すれば、返品時の送料をカバーしてくれます。もちろん、チャイニャオ・ステーションに返品を持ち込んだ場合は、返品送料は不要です。

こうした働きをするチャイニャオ・ステーションは大変好評で、今後数年間で400万カ所に増やしていく計画だそうです。実は、チャイニャオがステーションを増やしているのは、荷物の預かりと返品対応のためだけではありません。では、何をしようとしているのか。読み解くためのキーワードは3つあります。「顧客への密着」、「Fintech」、「O2O」です。


ラストワンマイルをラスト50米へ。ステーション密度の向上で顧客へ密着

中国の武漢大学では、学生8万人を対象に買い物の実証実験を行い、人が確実に受け取りに来る理想的な距離は50メートルであると分析しました。時間にすると約1分。この範疇に荷物があれば、ほぼ確実にすぐ取りに来るというのなら、ここにデジタルテクノロジーを注ぎ込み、確実な受け取りを実現させよう、とチャイニャオは考え、「ステーションの密度」を向上させようとしているのです。日本のコンビニ(都心)の基準である半径500メートル圏内と、チャイニャオがめざす半径50メートル圏内では、距離に対する心理的負担は全く変わるでしょう。

また、チャイニャオには、「貨物情報プラットフォーム事業」があります。これは、車の配送状況をトレースするプラットフォームを各配送会社に提供し、情報をクラウド上にあげてAIで管理するものです。宅配業者のトラック情報、荷物の中身、送り先の情報をクラウドに集め、スマートフォンアプリで利用者の位置情報を把握。荷物は利用者に向かって配送され、例えば、一番近いチャイニャオ・ステーションに効率的に届けられます。

受け渡しの管理も、スマートフォンアプリを通じて確実に行われます。チャイニャオ・ステーションのスタッフが、届いた荷物の送り状の情報を読み込むと、その情報が受け取る人に通知されます。荷物を取りに来た際に、送り状のバーコードと受取人のスマートフォンのバーコードを読んでマッチングが完了します。「スマホで一切を完結」は中国の文化といったところですね。


FintechとO2Oによる新たなマーケットの創出

さらに、「使い走り」と呼ばれるアプリを使うと、周辺を回っている配達員がチャイニャオ・ステーションまで荷物を取りに行き、今いる場所に届けてくれるサービスも始まっています。もちろん配送費は別にかかりますが、マイクロ決済やスマホ決済が当たり前の社会では、配達員がスマートフォンをかざすだけで決済が完了します。「Fintech」の技術の発展が、こうした自立的なマーケットの創出と、ラスト50メートルまで近づく方法の模索を後押ししています。

阿里巴巴グループはコンビニも運営していますが、店舗で受け取りができる仕組みを構築しています。また、コンビニと同じようなモデルでチャイニャオ・ステーションを運営する動きも進んでいます。キヨスクのような小型店舗にはタブレットを配布し、阿里巴巴の商品を販売してもらう取り組みも行われています。いずれも、商品が売れるとマイクロ決済ですぐに手数料が落ちる仕組みです。

これは、荷物を受け渡すと同時に、展示在庫やオンライン商品をステーションなどの店舗で販売するO2Oです。荷物の配送面からも、Eコマースとリアルコマースを近づける取り組みがなされているのです。これは阿里巴巴の馬雲(ジャック・マー)会長が、2015年に発言したリアルとオンラインをつなぐ「ニューリテール構想」から全ては始まっているのです。その凄みを感じざるを得ません。


まとめ

「ステーションの密度の向上」、「Fintech」、「O2O」の3つの機能をベースに進められているチャイニャオ・ステーションの在り方は、宅配の再配達問題を解決する一つのアイディアとして参考になるものではないかと思います。同じような仕組みが日本で運用できるかどうかは、私も確実なことは申し上げられません。しかし、物流の負荷を減らすためにできることを、他国に学び、実践してみる。これは、ロジザードとしても果敢に取り組んでいきたいテーマだと考えています。

再配達・物流業界の課題に関するおすすめコンテンツ