COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。

最終更新日:2023/05/22 EC・通販事業者セミナー運輸業・倉庫業(3PL事業者)

ロジザード物流セミナー2023レポート:今後の物流のカギを握るシェアリング

EC・通販事業者/運輸業・倉庫業 3PL事業者向けセミナーレポート3

ロジザードでは、YouTubeの「ロジカイギ」で人気の物流コンサルタントをお招きして、物流パーソンに必要な基礎からトレンドがサクッとわかるセミナーを開催しました。これから物流業界で働こうと業界研究中の方や、物流を基礎から学びたい方を対象にしたセミナーですが、ベテランにとっても目からウロコの大切なお話が満載でした。第1章第2章に続き、今回は、ロジスティクスへの熱い想いで大人気の物流戦略コンサルタント、株式会社LiNKTH(リンクス)代表取締役 小橋重信氏による、「第3章:『物流進化論』物流を制するものが未来を創る!」をレポートします。

開催概要

タイトル ロジザード物流セミナー2023
~ 物流をもっと知りたくなる!物流パーソンに必要な基礎からトレンド ~
開催日時 2023年4月19日(水)14:00~16:00
オフライン会場 浅草橋ヒューリックカンファレンス
オンライン YouTube
主催 ロジザード株式会社
参加費 無料
登壇者(順不同) 株式会社LiNKTH(リンクス)代表取締役 小橋重信様(第1・3章)
トランスフィード株式会社代表取締役 長井隆典様(第1・2章)
株式会社トークロア代表取締役 伊藤良様(第1章)
プログラム
  • 第1章:始まりは現場社員。物流コンサルタントが語る、"ロジスティクス新時代"の学び方と輝き方
  • 第2章:WMSのデータ分析から見えてくる運用改善の実例<
  • 第3章:「物流進化論」物流を制するものが未来を創る!

各章に、章末問題があります

第3章:「物流進化論」物流を制するものが未来を創る!

荷主の8割以上が2024年問題に無関心?

リンクスの小橋です。長井さんが、「現場」視点で物流課題の解決法を示唆されました。私はもう少しマクロ的な視点で、物流の現状と今後についてお話ししたいと思います。

「物流コストインフレ」が起きるよ、このままじゃ物が運べなくなるよと、経済産業省がコロナ禍以前から警鐘を鳴らしていました。実際に物流の需要が供給を上回るようになり、それがコロナで加速しました。時間外労働規制が法制化される2024年問題やドライバー不足への対応も一向に進まず、物流危機といわれる状況にあることは、皆さんもご承知だと思います。でも、倉庫事業者の方々からみれば、「コストインフレ? 料金の値上げなんて全然できないよ!」というのが実感ではありませんか? 物が運べなくなってきているのは現実ですが、物流コストはそれほど高騰しているわけではありません。

非常に興味深いデータがあります。国土交通省が2021年に実施したアンケートで、「2024年問題」を荷主はどう見ているかについて尋ねたところ、

  • 50%が「2024年問題」の存在も内容も知らない
  • 33%が「2024年問題」のことは知ってはいるが、内容までは知らない

要するに、8割を超える荷主が「2024年問題」を理解していませんでした。荷主と現場との間に大きなズレが生じていることに、非常に強い危機感があります。


「物流からすべての企業を元気にする!」をテーマに活動

私はもともとアパレルメーカーで働いていたのですが、32歳の時に会社が倒産してしまいました。不良在庫が遠因でした。「在庫を抱えるアパレルはもう嫌だ、これからはITの時代だ」と、IT企業の法人営業に転職して、普及しはじめたインターネットにどっぷりつかりました。この時は、テクノロジーの進化のスピードに驚かされました。アパレルとインターネットがわかるということでアパレルECに移り、EC黎明期を実務で経験してきました。そして、「ファッション×IT×物流」の経験を生かし、現在は「物流からすべての企業を元気にする!」をテーマに、物流戦略コンサルタントとして活動しています。

アパレル会社は全国に店舗を持つ規模でしたが、在庫理由でキャッシュが回らず一夜にして会社が倒産、社員が路頭に迷いました。「こんなことがあってはならない」と憤りましたが、実際のところ、同様の状況にあるアパレル企業がいまだに多く存在します。在庫を抱える=キャッシュが回らない=モノの動きがきちんと見えていない、つまり会社が物流を把握できていないことが問題で、ここを改善する必要があります。


物流企業と荷主企業の目的は二律背反

歴史的に、物流は製造業を起点としたモノの移動からスタートしています。戦後の高度経済成長に伴い、免許制度の下、運送業がモノを運ぶ役割を担ってきました。バブル期以降、2度にわたる規制緩和により、物流に関わる事業者が乱立し、物流企業の多重下請け構造が進みます。当然価格競争が激化し、少しでもコストを削減したい荷主企業は物流業務を丸投げするようになり、物流がブラックボックス化してしまいました。構造的に、モノの動きが見えない状況に陥っているのです。

そして、「物流の売上を上げたい」物流企業と「物流コストを抑えたい」荷主企業では、求めるものが二律背反の関係にあります。これをポジティブに解決する方法はないのでしょうか? 荷待ち時間の解消など、物流プロセス全体の課題を解決し、両者がともにメリットを得る効率化を進めていく必要があります。


物流とロジスティクス

ここで、「物流」「ロジスティクス」「3PL」のそれぞれの定義を整理しておきましょう。

物流:物的流通(Physical Distribution)。生産物を生産者から消費者へ引き渡す(空間および時間を克服する)こと
ロジスティクス:顧客の要求を満たすため、原材料の調達から消費者にモノが届くまでの一連の流れを、無駄なく効率的に管理する仕組みのこと
3PL(third party logistics):荷主企業に代わって第三者が効率的な物流構築の設計から運営、管理までを包括的に請け負う業態のこと

そして、「物流を良くしたい!」という場合、どの視点で考え、どこからどう手をつけるかが、肝になります。

物流を単に「コストセンター」としてとらえるなら、現場の「改善」にとどまり、それほど大きな効果は得られません。物流コスト高の要因の80%は、「倉庫外」にあるからです。アパレル業界なら、生産(仕入れ)によるロット生産やまとめ発注、配送時の顧客に対する過剰サービスや無駄な在庫の物流費、「欠品厳禁」の営業体制による過剰在庫の発生などが、物流コストを押し上げています。倉庫の現場で業務改善してコストを下げようと努力しても、倉庫外に8割もの要因があるので、現場にだけコストダウンを求めても効果が薄いのです。

「改革」にはトップダウンの力が必要です。経営およびマネジメント層が率先して、現状を否定し、戦略的に物流「改革」を推進する、つまり物流全体をプロフィットセンターとしてとらえる視点が重要になります。幸いITの進化により、従来の個別最適から全体最適へ、データの同期が可能になってきました。サプライチェーン全体で、モノの流れ全体を俯瞰し、整理、調整できる環境になっています。


攻めの物流で世界を制したインディテックス

物流課題で避けて通れないのが「在庫」問題ですが、そもそもなぜ在庫が生じるのでしょうか? アパレルを例にとると、在庫は市場の動向による品切れを防ぐために必要なもので、流通工程における中間在庫は需要予測の精度のぶれによって増えていきます。季節商品やトレンドによりお客様に届ける生産リードタイムが短いほど増え、受注生産が成立しにくいのもアパレルの宿命といえます。

この問題を「物流」で解決しているのが、ZARAを擁するスペインのインディテックス社です。

ZARAは需要にフィットするよう、企画製造からお客様へ届ける時間を極力短縮するため、すべてスピード優先、鮮度優先という攻めの物流戦略で動いています。過剰在庫を防ぎ、足りなければ猛スピードで再生産して届ければよい、航空輸送もOKと振り切って、世界トップレベルの売上を誇る衣料メーカーに成長しました。ZARAの生産方式は、実はトヨタ自動車の「Just In Time方式」をアパレルに取り入れて成功したものです。日本企業の知恵が日本で活かされていいないのは、なんとも歯がゆい思いがします。

今までは物流改善といえば、現場の業務効率化や品質改善を指していました。これはいわば「守り」の物流の在り方です。しかし、これからは事業戦略として物流をとらえていかなければなりません。単なる自動化、効率化にとどまらず、新たなビジネスを創出する可能性に満ちた、「攻め」の物流に視点を変えてほしい。実際に、そのような発想で新たなビジネスモデルが登場し、Z世代を中心に爆発的な人気となっています。中国のアパレルD2C企業の「SHEIN(シーイン)」です。

SNSとポップアップ戦略によるD2CのEC販売で業績を伸ばすSHEINは、マーケティングとロジスティクスを高度に組み合わせて、成功しています。このようにこれからの企業戦略には、需要を創造し売上を最大化するための「マーケティング」と、需要を遂行するために在庫(コスト)を最小化する「ロジスティクス」を事業の両輪に据える視点がとても重要です。今までのようにマーケティングに偏った施策では、成長が望めない時代に入っています。


今後の物流のカギを握るシェアリング

これから物流業界に関わろうという方には、少し難しい話だったかもしれません。でも、物流がデジタルでつながり高度化していく時代になり、ロジスティクスが企業戦略に欠かせない側面を持っていることを、少しでも感じていただけたらと思ってお話ししました。

物流は、従来の競争社会から「共創社会」へと変わる必要があります。すでに食品業界では共同配送が始まりました。これからの時代は、サプライチェーンマネジメント上でも、シェアリングやロジスティクスオートメーション(共有型)が標準化していくでしょう。

マネジメントの父と呼ばれる、かのピーター・ドラッカーは、「物流とは、経済界に残された最後の暗黒大陸である」との名言を残しました。物流は可能性に満ちています。そこで皆さんにお願いしたいことは、「物流会社の価値を自ら貶めないこと」。「1円でも安くしますからとにかく仕事をください」というアプローチから脱却し、「御社の物流戦略を一緒に考えていきましょう」と言える物流会社になりましょう。「物流からすべての企業を元気にする!」当社の想いが、皆様の力になれたら幸いです。


章末問題


まとめ

物流課題に関して、並々ならぬエネルギーを注がれている小橋氏はじめ、ロジカイギのメンバーの熱いトークに圧倒される2時間となりました。オフラインでのセミナーは3年ぶりということもあり、会場には物流会社のベテラン社員の方にもご来場いただき、懐かしい再会を果たせました。オンラインセミナーにも200名を超える参加をいただき、テーマへの関心の高さを感じました。

セミナー終了後のアンケートでは、

  • 荷主と物流会社との関係性を改めて整理できた
  • スライドが見やすく面白かった
  • 分析や今後の戦略を考える上でためになった
  • 物流業界の基礎知識・概要を短時間である程度理解できた
  • 物流の基礎から、今後のどんな展開をすべきかを知る機会となった
  • 改めてこれからの自社のロジスティクス戦略を見直したい

など、コメントを多数いただきました。

ロジザードもWMSからのアプローチで、物流DXに取り組まれる企業様を、全力で応援してまいります。物流現場の改善にとどまらず、物流をプロフィットセンターに変革したいとお考えの方は、どうぞロジザードにお気軽にご相談ください。


登壇者プロフィール
株式会社LiNKTH(リンクス)代表取締役 小橋 重信(こばししげのぶ)

婦人服アパレルメーカーに10年勤務し、マネージャーとしてブランド運営全般を行う。在籍中に上場から倒産までを経験し、ファッション業界からIT業界に転身。SONY(株)の法人向け通信事業部(bit-drive)で提案営業としてネットワークおよび、サーバー構築を行う。 その後、株式会社オーティーエスのEC物流の立ち上げ時に転職し、新規導入から現場改善、さらには、不良在庫販売や越境ECなどの新規事業を立ち上げる。現在は物流コンサルタントとして、物流改善、オムニチャネルの相談、越境ECの支援を行い、業界や学生向けの物流セミナーの講師として登壇している。ファッション×IT×物流の分野で「ファッション業界を物流から元気にしたい!」をテーマに活動中。


章末問題の回答