COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。

最終更新日:2023/07/07 EC・通販事業者オムニチャネルセミナー

ロジザード オムニチャネル×物流パネルディスカッション2022【前編】 ~ 実はコロナは関係なかった!? 成功するECの粒度 ~

ロジザード オムニチャネル×物流パネルディスカッション2022【前編】

大好評につき毎年の恒例となった、ロジザード オムニチャネル×物流パネルディスカッション。今年もオムニチャネル、ファッション流通の専門家を迎え、「実はコロナは関係なかった!? 成功するECの粒度」をテーマに熱いトークを展開しました。アパレルを中心に、変革を余儀なくされたリテール分野の実態を示すデータを読み解きながら、ECと店舗の在り方など小売業が今後目指すべき方向性について、語り合いました。本コラムでは前編として、「電子商取引に関する市場調査」に見る2021年のEC市場、EC化率等の動向についてのセッションをレポートします。

開催概要

タイトル:
ロジザード オムニチャネル×物流パネルディスカッション2022
~ 実はコロナは関係なかった!? 成功するECの粒度 ~

日時:2022年9月28日(水) 14:00~16:00
会場:オンライン (ウェビナー配信)
主催:ロジザード株式会社
参加費:無料

登壇者(順不同):
株式会社CaTラボ 代表取締役 オムニチャネルコンサルタント 逸見光次郎氏(以下、逸見氏)
有限会社ディマンドワークス 代表 ファッション流通コンサルタント 齊藤孝浩氏(以下、齊藤氏)
ロジザード株式会社 代表取締役社長 金澤茂則(以下、金澤)
ファシリテーター:
株式会社トークロア 代表取締役社長 伊藤 良氏(以下、伊藤氏)

内容:
前半:セッション
・経済産業省が公表した「電子商取引実態調査」
・2021年のEC市場、EC化率等の動向
後半:パネルディスカッション
・テーマ1:送料無料問題
・テーマ2:ライブコマース


経済産業省が公表した「電子商取引実態調査」に見るEC市場動向

伊藤氏
オムニチャネル×物流パネルディスカッションもとうとう恒例行事となり、3回目を迎えました。初回がなんと、国内で新型コロナウイルス感染症の最初の感染者が確認された2020年1月。パンデミックを経験した約3年の間、ECやオムニチャネルはどのような進化をしたのでしょうか? ロジザードの金澤社長をオーガナイザーに、今回もオムニチャネルの権威である逸見様、アパレル流通ならこの人に聞けといわれる齊藤様をゲストにお迎えして、「実はコロナは関係なかった!? 成功するECの粒度」をテーマに、ECの潮流や店舗とECのあるべき姿について、お話を伺います。 さて、経済産業省が公表した「電子商取引に関する市場調査」、これは1998年から続いている信頼できる調査データですが、これを見ると2021(令和3)年の日本国内のBtoC-EC市場規模は、約20.7兆円(前年比7.35%増)に拡大、宅配大手3社の取扱個数も増加しています。この数字をどう読み解いていけばよいでしょうか?「withコロナ」だからこのような結果なのか、それともすでに「afterコロナ」を迎えているのか、非常に興味深いところです。

経済産業省「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」より


EC率は向上するも物販市場はシュリンク

逸見氏
物販系分野における2021年のBtoC-ECの市場規模は13兆2,865億円、EC化率は8.78%で、前年に比べて8.61%増と、確実に伸びています。物販系ECの伸びと相関関係があると考えられている宅配便の個数は、伸びてはいますがECの伸び率ほどの増加はありません。背景には、店舗受け取りなど手段の多様化、1梱包内の商品点数の変化など、さまざまな要因がありそうです。
物販系ECの伸びに準じて物販市場そのものが伸びているのかと思うと、そうではありません。実は、2013年から物販市場全体の規模は約150~155兆円前後で推移しており、成長が止まっています。国内人口は今後減少し続け、2060年には総人口が9,000万人を割り込むことが確定で、コロナ禍に関係なく、すでに国内は成長市場ではないことは明白です。


BtoB物流(店舗配送)の回復

逸見氏
物流についてみていきましょう。トラック輸送による店舗配送等BtoB利用の定期幹線輸送は、コロナ禍により取扱量が激減していましたが、2021年は2017年度並みに回復しました。宅配便の取扱個数は前年度2.4%増の49億5323万個で、2020年度に激増した流れが続いています。

「トラック輸送情報2021」国土交通省

以前、宅配の大きな課題となっていた再配達問題は、2019年10月に15%だった再配達率が、20年10月は11.4%、21年10月には11.9%と下げ止まった感があります。コロナ禍で在宅率が上がったこと、置き配の普及が要因でしょう。地方では、11.5%(19年)→11.0%(20年)→10.4%(21年)と下がり続けており、在宅率との関連から見て、もしかするとリモートワークは地方でより定着しているのかな、という推察もできます。


オムニチャネルとは小売のDX

逸見氏
毎回お伝えしていますが、オムニチャネルの定義についても再度確認しましょう。オムニチャネルとは、「実店舗×デジタル」で顧客と企業の結び付きをより深める施策です。「チャネルをまたいで買い物ができる」というクロスチャネルと混同されがちですが、単にそうではありません。オムニチャネルは企業と顧客がさまざまな情報をやり取りして、あらゆるチャネルで顧客と企業が結び付き、デジタルを介した双方向コミュニケーションができる関係性を構築する施策です。すなわち、デジタルデータを活用できる環境にあることが、オムニチャネルの前提になります。チャネルの拡大や一方的な情報発信はアナログでもできますが、お客様のLTV*を高めたり双方向でコミュニケーションを行ったりするには、デジタルデータが欠かせません。買いたいものをどこで買うかはお客様の自由です。今や買い物接点も情報接点も一緒になってきて、情報を見て「いいなと思ったらすぐ買いたい」を実現するのが、オムニチャネルです。

*LTV:Life Time Value(ライフ タイム バリュー)の略。「顧客生涯価値」と訳され、顧客との一取引が開始してから終了するまでの期間内に、どれだけの利益をもたらすか算出したもの。

伊藤氏
初期のころはお客様の利便性を高めることに主眼が置かれていましたが、今はもっと進化しているんですね。

逸見氏
そうですね。安心して買えるようになるなど購買体験がよくなると、リピートや1度の買い物での購買点数、購買額が上がっていきます。

齊藤氏
在庫が見えるなど安心して買える体験をすると、お客様も何か買いたい時に「あそこに行けばあるんじゃないか」と、まずアクセスするようになりますよね。お客様の進化も早いですから、自ら情報をとる行動をしています。でも、企業が情報を発信していなければ、見つけてさえもらえないわけです。

逸見氏
小売DXといいますが、ちゃんとデータ活用していく、デジタルデータを活用して双方向コミュニケーションをとっていくことが、まずは大事なことではないかと思います。小さなお店でも、隙間時間にSNSを使って、開店時間や今日のおススメをこまめに発信すればいい。昔は広告枠を買わなければ発信できなかったことが、今はSNSでお金をかけずに発信できる環境があります。これを活用するところからでもいいと思います。そのためには、お店での接点も重要で、LINEやインスタなどに入ってもらうよう声掛けの第一歩も大切です。

昔は商品の流れはシンプルでしたが、オムニチャネル化すると、商品の流れはかなり複雑になります。お客様の選択肢を増やせば、売上とともにコストも増加します。でも粗利増のチャンスでもあるので、そのバランスを見ながら対応していく必要があるでしょう。


海外は街に人が出て経済が回っている

逸見氏
先般(7月初旬に)ニューヨークに行ってきましたが、街に人が出て消費、経済が以前同様に回っているというのが実感でした。Macy'sではオンラインオーダーの受け取りカウンターが充実し、平日でも次々とピックアップに来る人が訪れ、そのまま店内に入っていく様子が多く見られました。

老舗百貨店Macy's。グループ売上高は173億ドル。写真はNewYork 37thAVE店 写真:逸見氏提供

金澤
みんな外に出だした実感はありますね。ECって便利だけど、買い物ってそれだけじゃなくて「楽しむ」ものでもありますから。決まっているものはオンラインで購入しておいて、速攻ピックアップすることで商品選択の時間を抑えつつ買いまわりに余裕を持たせる、という「効率的な時間の使い方」にBOPISを活用しているんですね。

逸見氏
一時、Amazon小売市場で独り勝ち?というムーブメントがありましたけれど、そうはなりませんでしたね。ファンとのエンゲージメントを高めながら、売上を伸ばしている企業も少なくありません。

オーガニック食品の専門店として人気のWHOLE FOODS MARKET、高級志向の食品スーパーですが、売上高160億ドル(17年公表値)と好調です。世界最大の家電量販店BESTBUYは売上高473億ドル(注)と、ECと法人事業で成長中。接客重視の姿勢とECの強化施策が当たりました。大型ディスカウントストアのTARGETも、売上高1,060億ドルと成長している背景には、店舗内にEC用在庫を置くマイクロフルフィルメント化を進めてECを強化したことも大きいです。独ディスカウントのALDIの子会社である食品スーパーTRADERJOE'Sは売上高165億ドル。世界最大のホームセンター企業THE HOME DEPOTは、売上高1,321億ドル。一般向け、プロ向けとEC事業で成長しています。店舗を持つ強みを活かしながらECを強化して仕組みづくりを進めてきた企業が、業績を伸ばしていることを、肌で感じてきました。

New York Grand St 店にある、TARGETとTRADERJOE'Sの併設店(写真:逸見氏提供)
注:各売上高はWHOLE FOODS MARKETを除き「世界の小売業ランキング2022(デロイトトーマツ)」より2020年度分参照

伊藤氏
逸見様には、アメリカ視察の報告も含めて小売業界の現状をリアルに見せていただきました。齊藤様には、特にアパレル事情を中心に「EC化率の変化と現場感」について伺いたいと思います。


世界の大手アパレル企業の多くが約2割減

齊藤氏
EC化率といっても、業種によって大きく異なります。書籍やCD、家電はすでに40%を超えていますし、家電も2番手につけています。昨今はインテリア家具や雑貨もその次に伸びてきていて、そこに続くのがアパレル・ファッション系で21%、一番大きなマーケットである食品は4%に満たない状況です。とはいえ、冒頭のEC化率のグラフにあるように、2014年度に比べてほぼ倍になっていることは事実で、お客様に便利な購買体験を提供できるよう、企業が環境を整えていることは間違いありません。コロナ禍でEC化した企業は、店舗の売上を何とか挽回したいというところから始めているケースが多いと思います。でも、ECは食品に代表される単価が低いものなど、扱う商品によっては物流コストが割高になり利益率が下がります。データと顧客行動をすり合わせてみると、見えてくるものがあります。

経済産業省「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」

私からは、前回もご紹介した世界の大手アパレル企業売上高ランキングの最新版をご覧いただこうと思います。2021年度集計ですので、コロナ2年目の各企業のデータです。

上位の企業は、皆オムニチャネル化が進んでいます。激安ファストファッションのプライマークやしまむらなど、低価格商品を扱う企業は、どうしても配送コストがネックになりECは不向きですが、プライマークはオンライン施策がしっかりしていて、在庫がどの店舗にあるかなど、消費者が知りたいことを情報としてきっちり発信して店舗売上につなげています。しまむらもわずかなEC売上のうちの9割は店舗受け取りと、クリック&コレクトの発想でクリアして、売上を伸ばしています。オムニチャネルはEC化とイコールではなく、いかにお客様にリーズナブルな購買行動の選択肢を提供できるかであることを、証明しているランキングだと思いますね。

逸見氏
ユニクロのオムニチャネル化は、店頭で扱わないサイズの商品はネットで注文してね、という在庫効率を考慮している点がユニークです。

齊藤氏
送料の考え方も変わりつつありますね。企業もまず、店舗受け取りを前面に出したうえでユーザーに選択してもらおうという流れが出てきています。店舗の売上も戻りつつありますが、EC利用は継続されおり、全体的に売上を底上げしています。お客様は一度体験した便利さを手放さず、ECと店舗を上手に使い分けているようですね。
あいかわらずトップのインディテックスは、店舗が閉まっていてもネットで買える仕組みを、一足先に全世界で構築して絶好調、過去最高益確定です。全世界の店舗在庫とEC在庫を一元化し、オンライン注文にも店舗在庫を引き当てて出荷することを可能にしました。店舗に在庫があれば、オンライン注文後2時間で、店舗受け取りを可能にしています。絶好調なのは、この仕組みがお客様にとっても利便性が高く、定着している証しだと思います。さらに、店舗体験を向上させるためにアプリ「Store mode」も実験中です。IDでEC購入履歴と店舗購入履歴を統合したり、店内の陳列場所を表示したり、フィッティングルームを予約したりできるアプリです。ZARAってフィッティング待ちが多いですからね。先日試したところ、一部の精度はまだまだ実験中という感じでしたが、ユーザーの購買体験向上のための施策を着実に進めている様子は確認できました。

逸見氏
ECと店舗の購入履歴を統合してもらえるのは便利です! 「Store mode」も今後はトレンドになっていくでしょうね。


EC化率を高めた企業の今後の展開は?

齊藤氏
EC化率を高めた企業は今後何を目指していくのか、これを示唆する事例をご紹介します。前回のセミナーでもご紹介した英国発のnextですが、オンライン売上比率は65%でその半分が店舗受け取りです。店舗網、物流網が整っており、自社商品のみならず、他社商品のクリック&コレクト、物流代行を実現しています。AmazonUKで購入した商品も、nextの店舗で受け取れるサービスも継続中です。これに加えて、2020年11月には、他社の公式サイトの運営とフルフィルメント支援をスタートさせました。自分たちが内製で極めたプラットフォームを、他社にも利用してもらおうと、プラットフォーマー事業をサービスとして提供し始めたわけです。COACHやFURLA、MANGOなどのビッグブランドもnextプラットフォームサービスに参加しており、売上の一角を担っています。自前でやってきたことを、将来的に事業として展開できるのではないかという事例として、大いに参考になります。

金澤
日本のアパレル企業もnextやZARAから学んでいるはずですから、同様の方向性を目指す企業がありそうですね。

齊藤氏
そうですね。自前でECを強化してきたアダストリアは、この流れに近い動きを始めています。

アパレル企業が物流企業を買収の衝撃

齊藤氏
もう一つ事例をご紹介します。驚いたのはアメリカンイーグルです。なんと委託していた3PL物流会社であるQuiet Logistics社を買収しました。アパレルによる物流企業の買収は、大変話題になりました。自社で物流を強化するために、一から内製するのではなく買収で内製化していく手法ですね。Quiet Logistics社が行っている他社のEC配送はそのまま担いながら、共同配送の道を開きました。3PLを内製化する動きは、他社も巻き込みながらマーケットを変える力を内包しています。

金澤
右肩上がりの企業は物流会社を自社に取り込み、そうでない会社は物流を切り離す傾向にありますね。ここ数年、プラットフォームの在り方が模索され、自分たちの完成されたシステムを他にも広げて、社会的に効率を高めていこうじゃないかという動きが出てきました。

齊藤氏
これを極めれば物流はプロフィットセンターになる、と気付いたんですね。


クリック&コレクトの利便性を手放さない消費者

逸見氏
齊藤さんからnextのお話がありましたが、日本にとって英国事例はとても参考になると思います。駅を中心に街がコンパクトに出来上がっているという点で、状況が似ています。私が定点観測している英国の老舗百貨店John Lewisでは、近年店舗商品をネットで購入できるよう、仕組みを構築してきました。老舗百貨店が、オンラインに約88億円(21年度)もの投資をしているんです。コロナ前の2019年には、ネット対店舗が4対6だったのが、2020年度にはネット6対店舗4に逆転。オムニチャネルが加速して全体の売上を押し上げ、過去最高の売上を達成しました。

金澤
昔からイギリスのEC率は高いですね。

逸見氏
イギリスのEC化率は平均25%といわれています。モバイルオーダー、店舗受け取りという手法が早い時期から進んでいましたね。国土が狭く、駅を中心に街が形成され店舗が置かれる、日本と似た環境ですから、こうした取り組みは日本と相性がいいはずだと思っています。
John Lewisが売上を伸ばしているのは、コロナ禍でクリック&コレクトを体験した人たちが、必要なものを事前にネットでオーダーしピックアップすれば、時短で便利だと気付いたことも大きいと思います。百貨店側も、事前注文で確実かつ迅速にお渡しできたら、空いた時間でさらに店内で買い物をしてくれる効果が生まれました。実際に、必要なものを事前オーダーしないで買おうとすると、とても時間がかかります。私の体験ですが、購入を決めていた数点の商品をネットで事前購入するつもりが、カードエラーで失敗してしまい、やむなく百貨店のフロアを歩き回りました。商品は決まっていて、それがどのフロアにあるかも分かっているのに、店員2人にサポートしてもらいながら、商品を探し会計するまでに45分もかかったんです。クリック&コレクトなら1分もかからなかったはずです。買い物って、本当に時間を消費しますよね。 

金澤
「時は金なり」ですね。中国は事情がちょっと違っていて(笑)。協力会社の社員の話を聞くと、非常に強固なロックダウンが行われていたこともあり、うっかり外出先でロックダウンにでもなったら大変、という恐怖感からか、極端にECに偏っているそうです。自宅にいながら買い物をすることがリスクヘッジになっていて、いまのところまだ欧米のような状況にはなっていないようです。
若い人たちの購買行動を見ていると、その基準を単なるコンビニエンスではなくて「対価」に置いていると感じます。

逸見氏
消費者は何にコストパフォーマンスを感じるか、何を対価として見ているのか、そこを間違えないようにしないといけません。便利さを体験した人は、その便利さを手放しません。安さだけでなく、その人にあった購買体験ができる選択肢の一つとして、EC-店舗の連携がより強化されていくと思います。


EC体験と店舗体験の整合性をとり、体験価値をそろえていく

伊藤氏
倉庫データの視点から、金澤社長はこの1年で、どのような変化を感じていますか?

金澤
私が3年前のオムニチャネルセミナーで描いた小売業進化のシナリオは、予想にはなかったコロナ禍により急激にECシフトが起こり、いよいよその流れが加速して、店が要らなくなってしまうのではと思いました。ところが2年経ってコロナに対する人々の警戒感が変わり、外出が増え、生活のベースが戻り始めるとともに、店舗出荷が伸びてECが鈍化してきました。倉庫のデータを見ていると、動きがよく分かります。ECシフトしていたものが、やや以前の状態に戻りつつあるという傾向です。ECシフトがそのまま進むかと思ったが、そうではなく、実店舗とのバランスをとっていこうという動きが見られます。ただし、戻りつつあるといっても、世界が以前の形に戻るわけではないということは、理解しておかなければなりません。

逸見氏
かつて飲食のモバイルオーダーはなかなか浸透しませんでしたが、コロナ禍で一気に進みました。しっかり対応したところは、店に人が戻ってもモバイルオーダー分は落ちていないのです。つまりプラスアルファの売上拡大につながって、自ら市場を拡げることができています。

金澤
コロナ当初は、売上確保の代替案を急ぐという発想だったと思います。でも、店舗もECもどちらも上手に利用していこうという消費者の意識の変化に、今後はしっかり向き合わないといけません。EC体験と店舗体験に違いがあってはいけないのです。整合性をとりながら体験価値をそろえていくことが、オムニチャネルの重要な部分だと思います。USやヨーロッパのように、ECも店舗も成長する、マーケット拡大という方向に向かってほしい。補填でも代替でもない、マーケットを拡げるためにオムニチャネル化を活用するという発想が必要ですね。

伊藤氏
ありがとうございました。後半のパネルディスカッションでは、ECにおける送料無料問題、そして今注目のライブコマースについて、皆さんのお考えを伺ってまいります。

後編に続きます。


登壇者プロフィール

 

齊藤 孝浩(さいとう たかひろ)
有限会社ディマンドワークス 代表

グローバルな商品調達から、ローカルなストアオペレーションまで、ファッション流通の実務を川上から川下までを実務で経験。2004年に独立し、チェーンストア化を目指す多くの新興・成長ファッション専門店を、在庫最適化とキャッシュフロー経営の視点から支援する、ファッション流通コンサルタントとして活躍中。著書に、『人気店はバーゲンに頼らない(中央公論新社)』『ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)』『アパレル・サバイバル(日本経済新聞出版社)』がある。

逸見光次郎(へんみこうじろう)
オムニチャネルコンサルタント 株式会社CaTラボ 代表取締役

1994年三省堂書店に入社。1999年ソフトバンクに入社し、イー・ショッピング・ブックス社(現 セブンネットショッピング社)の立ち上げに参画。2006年アマゾンジャパンを経て2007年にイオン入社。ネットスーパー事業の立ち上げと、イオングループのネット戦略構築を行う。2011年キタムラに入社し、執行役員・EC事業部長を務め、同社が「人間力EC」と呼ぶオムニチャネル化を確立。その後、ローソン、千趣会を経て独立し、オムニチャネルコンサルタントとして多くの企業のオムニチャネル化を支援中。2019年4月に株式会社CaTラボを設立。著書に、『デジタル時代の基礎知識『マーケティング』 「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール(翔泳社)』『小売DX大全(日経BP社:共編著)』がある。

伊藤 良(いとうりょう)
株式会社トークロア 代表取締役社長

EC黎明期である2000年から大手企業でECに携わる。その後、ベンチャー企業4社の幹部として広範囲の実務と事業の成長に伴う様々な課題を経験する。前職の通販物流企業では営業責任者として年商10倍までの道筋を作る。アドバイザーとして独立し6年経った現在では事業参謀として新規サービスの開発、マーケティング、業務体制構築など種々多様な50以上のプロジェクトに携わっており、ハンズオンの支援に定評がある。

金澤茂則(かなざわしげのり)
ロジザード株式会社 代表取締役社長

株式会社福田屋洋服店(現 株式会社アダストリア)にて、店長やバックオフィス業務に従事し、在庫消化のため「アウトレット」を企画。物流倉庫と連携を強める過程で「在庫」の重要性に気付き、アパレル企業向けのコンサルタントとして独立する。在庫情報の重要性を唱える中、在庫管理システムを開発する前取締役会長遠藤と出会い、2001年にロジザード株式会社を設立。物流×在庫×ITを掲げ、クラウドWMSのリーディングカンパニーとして業界をけん引する。オムニチャネルや物流ロボット、RFIDなど物流の最新技術に精通し、企業の売上増大に結びつく物流改革を実現する手腕は、高い評価を得ている。

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