COLUMNロジザードオリジナル EC・物流コラム

物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。

2019/03/29 ECリアル店舗在庫管理特別コラム

オムニチャネル時代を生き抜くために、物流をどうとらえるか?

kobashi-san_01.jpgオムニチャネル化の進行により、ユーザーが、欲しいタイミングに欲しい場所で欲しい商品を手にすることが当たり前になりつつあります。一方で、それを下支えしている物流がパンク寸前なのは周知の事実。深刻な人手不足と管理コストの増加に、生産側、物流側がそれぞれに対応していても難しい局面を迎えています。オムニチャネル時代を生き抜くために、物流をどうとらえて対策を講じていくべきか、物流コンサルとして大活躍の株式会社リンクス 代表取締役社長の小橋重信さんに、現場視点からのお話を伺いました。

「ファッション×IT×物流」から世の中の動きを見る

私は、1992年から約10年、アパレル企業で上場から倒産まで経験しました。時代はバブル崩壊の直後、まだまだ個人の消費意欲は衰えておらず、商品を作れば売れていく状況にありましたが、消費が陰って来たな、百貨店がつぶれていくな、と思っている間に山のような在庫を抱えて突然倒産しました。その時に、在庫が滞留することの怖さを経験しました。

「2度とアパレルは嫌だ!これからはITだ!」と思ってIT関連企業に就職。その後に入社した物流会社では、ファッションとITの両方の知識があることを活かし、在庫とシステムの側面から多くの荷主の方の課題解決を進めてきました。そして今は、「ファッション×IT×物流」の分野で、コンサルとして活動しています。

 その中でとても気になるのは、物流をきちんと理解せずに「コスト」としか見ていない荷主さんが多いこと。「モノが売れないからコストを削減したい。手っ取り早く倉庫や配送コストを下げよう」という発想になりがちです。ECの拡大やオムニチャネル戦略、ロボティクス、IoTなど時代が進み、物流はますます複雑かつ重要なファクターになっています。しかし、その重要性を本当の意味で理解している人はあまり多くありません。企業内でも、商品企画や生産部門に比べて物流部門はコストセンターとして軽んじられがちです。私自身もアパレル企業にいた時には、物流部門を「価値を生まないセクション」と思っていたからわかります。現場も見下されることに慣れてしまって改善意識が薄れてしまい、経営上の問題がそこにあることがなかなか社内に理解されません。価値を出せる仕事でありながら、改善できずに疲弊しているジレンマを感じます。

 荷主がきちんと生産から販売、在庫を正しくコントロールすれば、コストは大幅に削減できます。今注目されている「SCM(サプライチェーンマネージメント)」です。ずさんな計画、オペレーション上の問題で生じた不動在庫は、いわば会社の課題が物流現場に表出している状況。そのツケを物流サイドに払わせようとしていることに、双方が疑問を感じないといけません。物流コストをカットしても、誰も幸せにならない。販売側は構造的な問題を解決しないままですし、物流現場は疲弊してよい仕事ができなくなります。

オムニチャネルは物販の特効薬ではない

 ファッション業界に限りませんが、実店舗での売上低迷の打開策としてECへの進出を試みることから、いわゆる「オムニチャネル化」に進む流れがあります。物流の対策まで考えが及ばずにネットショップを立ち上げてしまい、在庫不足や納期遅延など、現場が混乱するケースも多く見受けられます。オムニチャネルは、物販の特効薬ではありません。チャネルを増やせば売れるというものではなく、生産から物流まで、トータルできちんとした戦略を立てなければうまくいきません。

どこからどのような方法でお客様が購入しても、お客様の手元に商品を届けるという行為はなくなりません。ECも、商品の移動はオフラインからオフラインです。ECの運営というとどうしてもサイトへの集客をメインに考えがちですが、それだけでなく、ユーザーにどうやって確実に商品を届けるか、在庫管理や配送までしっかり設計する必要があります。物流面まで考えておかないと、売れても届けられない、つまり売上にならないばかりか企業イメージの失墜という事態になりかねません。

ユニクロやZARAを例に、彼らが何に価値を置き、そのために生産から物流までをどうデザインし、どこに投資しているのかを見てみるとわかりやすいと思います。ユニクロは、バイヤーを介しての注文、生産を行って在庫が残ることを嫌い、自分たちでお客様の声を取りに行き、お客様の心理を理解して、今お客様が欲しいものをタイミングよく自分たちが作って届けたい、と考えました。それが自社生産、自社物流の仕組みの構築に繋がりました。昨年、ユニクロはマテハンで世界トップクラスのダイフクと戦略提携を結び、省人化9割を達成する倉庫の自動化に成功。自社物流だからできる投資ですが、混乱していた物流現場の無駄を排して、顧客の購買体験向上のための施策を進めようとしていることがわかります。ZARAは需要予測をきっちり行い、作ったものは「売り切る」戦略です。週に2便、スペインから世界中に空輸しますから物流費はめちゃめちゃ高い。でも、物流コストをかけても、トレンドを抑えたファッションをタイムリーに提供して売り切ることが、ZARAの方針なわけです。これは物流を「コスト」から「戦略」に転換した好例といえるでしょう。

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消費者の購買行動の進化に経営者は・・・?

ユニクロやZARAのオムニチャネル化を消費者はすでに「当たり前のこと」として体験しています。しかも、消費者はプロパーにこだわりません。リセールもレンタルもありですし、消費行動のベースにインターネットが介在することが当たり前になって、より自分が望む要素を満たすところで消費活動を行います。消費者がどんどん進化しているのに、商品を提供する側が固定概念にとらわれて内向きの施策をしていてはまずい。言い訳に終始して未来志向の投資ができない企業は、事業が継続できなくなる危険があることに気付くべきです。

接客も、店頭での人による接客だけが顧客満足につながるとはいえません。あるウエディング(ドレスレンタル)企業をコンサルした時の話です。ドレスの在庫は店ごとの保有で一元管理されておらず、お客様が気に入った商品がなければ別の店に誘導するという対応で、ユーザーは最初の店で商品を選び、試着をするのに約3時間かけ、気に入ったものがなければ結局他店に行かされるという流れです。しかも、店側もスタッフ1人が対応できるお客様は1日せいぜい3人。これはまずいというのは、誰もがわかりますよね? 希望のドレスをサイトで数点選び、当該店で時間指定の予約をして試着できれば、お客様に無駄な時間や行動を強いることはなく、スタッフも時間のやりくりができるようになります。仕組みの構築とわずかなIT投資で、顧客満足度も店舗の生産効率も向上できるのですが、ここを理解できる経営者が少ないことに驚かされます。

オムニチャネルは多様化する購買体験のコントロール

自分の企業の業務を再定義してみる視点が必要です。Amazonのリコメンドの方が消費者にとっての満足度が高いこともあり得ますし、AIの進化により場所を問わずに消費者が接客を受けるケースも出てきました。購買行動のモチベーションは消耗か所有かのどちらかです。ユーザーにとって真のコンビニエンスな購買体験とは、その時の購買モチベーションに沿った方法で、欲しいものが欲しいタイミングで欲しい形で手に入ること。オムニチャネルは、これに応える商品の「売り方改革」といえます。

私は、アパレル系EC担当者を集めてのオムニチャネル勉強会を開催しています。そこで話すのは、「ファッションには買い物の楽しみ」というところがあること。喜びを得るにはやはり体験、ワクワク感が大事で、これを実現できるリアル店舗の存在は大きいと思っています。Amazonの1人勝ちといわれますが、彼らはとにかく「物量」と「テクノロジー」で攻めるだけ。売り場、つまり世界観が出せません。そのために、すでに素晴らしいカスタマーサービスや、他社が真似できない独自の企業文化で爆発的な人気を誇る、靴専門のECサイト「Zappos(ザッポス)」を、Amazonは「ここには勝てない」といって、約800億円で買収しました。顧客の購買体験がいかに重要かを知るがゆえの投資といえるでしょう。

テクノロジーの活用で、ECや店舗のスマート化が進む余地がまだまだあります。ZOZOはツケ払いの導入で、従来は取り込めなかった若者層を広く獲得することに成功しました。「今、欲しい! でも今は払えないから買えないなぁ」という顧客心理をテクノロジーの活用で解決したわけです。モノが売れない時代でも、お客様の心理に寄り添った購買体験を提示できれば、道は開けます。ただし、消費者の心理の一歩先を行く購買体験の提案に、IT技術はどうしても欠かせません。ある程度のIT投資は必須です。

物流現場にも必要な意識改革

kobashi-san_02.jpg物流の現場でも、オムニチャネルに対応するための在庫管理を、人海戦術で行うのには限界が来ています。こちらもWMSやロボティクスなど、最新のテクノロジーを活用するための意識改革や投資が必要でしょう。ただし、3PLは荷主が変わるのが前提ですから、大きな先行投資をしづらいのが難点です。

これを解決する一つの手段として、今後は業界全体で例えばコードや段ボールサイズの標準化を図るなど、マテハン投資をしやすくする業界標準を決めていく流れになるのではないかとにらんでいます。実際に、私は段ボールの標準化プロジェクトを勧めようとしたことがありますが、今はまだ、業界全体の理解が熟成していないため遅々として進んでいません。業界そのものが古い体質のため、新しい考え方を受け入れる土壌ができていないことを痛感しています。

しかし、もうそんなことは言っていられないはず。売上が伸びるほど苦しくなる「物流」を根本から見直さなくてはなりません。時代が変わり、消費者の意識が先行しているのです。それにあわせたスマート化を勧めた企業だけが生き残ることが想像できなければ、こちらも存続が厳しくなるでしょう。自社ですべてを構築できる大手企業はともかく、中小企業は特に未来志向に意識を変えていくことが大事です。メーカーは企画と販売に専念し、物流システムはオープンプラットフォームで標準化された運用に。その一歩を、小さくても踏み出すことが重要だと思っています。

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