COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。

最終更新日:2024/06/05 インタビュー・見学オムニチャネル小売業(リアル店舗)

マルイのOMO戦略!「売らない店」×物流オペレーションのタッグの実現

近年、「売らない店」を旗印にOMO戦略を進める、商業施設「マルイ」を擁する丸井グループの活動に注目が集まっています。OMO戦略には物流が密接にかかわります。このたび丸井グループの物流オペレーションを担う株式会社ムービングの矢作雄一様に、お話を伺うことができました。オムニチャネル黎明期から時代をけん引してきた、丸井グループの先進的なOMO戦略について、物流会社の視点から語っていただきます。

物流システムとは?

株式会社ムービング
事業企画部 部長 矢作雄一様

お客様ニーズに応えることで生まれたマルイのオムニチャネル戦略

― マルイ様はかなり早い時期からオムニチャネル施策を始められましたが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

マルイは、2006年に「マルイウェブチャネル」という自社通販サイトを開設しました。当時はまだ、「オムニチャネル」という言葉はなかったと思いますが、スタート時はEC在庫に余裕がなく、EC在庫が欠品すると、店頭在庫を引き当てていました。そのような事情があり、早い時期から店舗と通販の在庫を連携させていたのです。その後、お客様から「店舗の在庫を知りたい」との声が寄せられ、店舗在庫情報をWeb上で見られるようにしました。また、アパレル商品は試着してみないと分からないという難しさがあるため、「ECで注文した商品を試着したい」という声に応えて、店舗での試着および受け取りを可能にしました。こうしてお客様の声に応え続けてきた結果、自然な流れでオムニチャネル化していったのです。

― 今でもオムニチャネルはハードルが高いといわれます。なぜマルイ様はそれほど早い時期に実現できたのでしょうか?

早期にオムニチャネル化できたのは、そもそもマルイの店舗が、売上・在庫の単品管理をしていたからです。
このころの百貨店は、レジで会計をする際に「どの商品」ではなく、「いくらの商品」という視点で会計を行っていました。一方、マルイでは、どのお店で何がどのくらい売れているのかを卸で仕入れている商品に対しても認識して戦略を立てることを行っていました。それは、PB(自社企画商品)だけでなく多くのNB(メーカーの商品)で、取引先様の商品もJANコードを用いて単品管理しており、それがマルイの強みでもあり、他社様と比べて、早い時期からできていたと自負しています。

2006年にはもう一つ大きな出来事がありました。従来のハウスカードを、VISAとの提携によるクレジットカード「エポスカード」に転換したのです。これにより、「店舗」「ウェブチャネル」「エポスカード」というリソースを最大限に活用した戦略が可能になりました。具体的には、店舗で買い物→エポスカード提示→ECを利用していない人にはレシートと一緒にECクーポンを出す、といった施策を講じ、相互送客を行いました。一般的に、店舗とEC両方で買い物する人の売上は、そうでない人と比べて2倍~3倍になるという統計データがあります。エポスカードを絡めて店舗とEC間の相互送客を行い、LTV(顧客生涯価値)の最大化を目指す方針の下、オムニチャネル施策が進みました。これも単品管理ができていたからこそ可能だった戦略です。


店舗と物流のコラボが生んだ、受取・配送・返品サービス「トルダス」

― ムービング様が展開されている、マルイの店舗で受取・返品・持ち込み発送ができるサービス「トルダス」のベースは、すでにできていたのですね。「トルダス」としてサービスを展開された経緯について、教えてください。

トルダス」は、 もともとマルイウェブチャネルが提供するお客様向けのサービスで、決済前の商品を対象店舗に送り、試着をして気にいったら購入していただくものでした。お客様にはうれしいサービスですが、店舗側には少々問題で...。試着室が限られていること、バックヤードに取り置き在庫があふれること、販売員のリソースが試着対応に取られて本来の販売業務ができなくなることなど、次々と課題が出てきました。

一方、物流側には「再配達」という社会課題への取り組みが求められていました。ムービングも、物流の起点となる倉庫の役割とは何か、再配達対策と物流起点によるサステナブルな価値の創出とは?と改めて検討し、決済済みの商品を対象に、ムービングで店舗受け取りサービスを展開することにしました。物流企業でありながらマルイという集客拠点を持つ強みと、センターと店舗間をハブ&スポークで結ぶ車両網を活かし、ラストワンマイルの物流費削減とマルイのOMO施策への貢献を実現しています。

― まさに、グループ企業の強みを活かした施策ですね。「トルダス」はZOZOTOWNとも連携されています。今後さらに外部サービスとの連携をお考えですか?

「トルダス」は2020年からサービスを開始し、マルイウェブチャネルだけでも、年間40万件近い取り扱いがあります。ZOZOTOWN様とは、2022年に返品サービスのトライアルを始めました。「トルダス」がお客様の目に触れる機会が多くなり、取り扱いが急増しています。配送費が高騰するなか、一般のお客様にとって返品や発送にかかる費用を抑えられる、というメリットが評価されているのだと思います。外部との連携においても、年間40万件を目指してパートナーを増やしていこうと考えています。お客様のEC体験をよりよくすることで、マルイだけではなく、EC業界全体を盛り上げるサービスにしたいと考えています。


「売らない店」 体験型ストアの実現

― マルイ様にお話を戻しますが、OMO施策の背景には、ビジネスモデルの変革があると伺いました。具体的な方針、施策についてお聞かせください。

マルイは、仕入れて販売するという旧来の百貨店型ビジネスから、ショッピングセンター型ビジネス(不動産の定期借家契約)に業態を切り替えることで、売上高にこだわらないテナントのリーシングを実現しました。つまり売上重視から商業施設への集客重視へと考え方を変えたのです。とにかくお客様に足を運んでいただき、「体験」や「滞在」など何らかの形で楽しんでいただける店づくりをしよう、という思想に変わりました。

マルイは現在、体験価値の提供や顧客とのエンゲージメントの場としてのリアル店舗を目指し「売らない店」を推進し、DtoC事業者による体験型のテナントやPOPUPショップ、イベントなどが気軽に出店できる、自由度の高いスペースを提供しています。店舗を顧客接点の場として活用し、そこで体験をしてもらうことで、ECサイトへ誘導し実際の購入につなげています。店舗受け取りや返品対応サービスも、店舗に来てもらうきっかけになります。こういう発想は、百貨店型のビジネスをしていると出てきませんよね。


劇的に変化するマーケット、柔軟かつ大胆な変革が成長のカギ

― マルイ様の動きからは、今後も目が離せそうにありませんね。

マルイがアニメをはじめとするコンテンツ系イベントに力を入れているのも、いわゆる「百貨店」とは縁のない層との出会いの場を創出し、接点を増やしたいと考えているからです。テナントさんの出店目的や顧客との関わり方は、ものすごいスピードで変化しています。従来の出店目的は、売上を上げることしかありませんでした。ところが最近は、例えばLINE登録の促進などを通じてお客様に認知してもらうこと、エンゲージメントのきっかけづくりへと変化しています。同様に店に足を運ぶ人たちの目的も変わってきています。購買よりも「体験」にシフトしています。丸井グループは昔から「お客様の要望に応える」ことで商売を進化させてきました。マルイの施策と時代がマッチして、グループ全体が大きく成長していると思います。


まとめ

創業以来、小売と金融を柱にビジネスモデルを展開してきた丸井グループは、時代とともに変遷する消費者ニーズ、マーケットにあわせて、自らの業態を積極的に進化させてきました。昨今では、店舗での販売をゴールとしない「売らない店」を旗印に、ユニークなOMO戦略で業界をリードしています。これからも進化し続けるマルイ様のOMO施策に、物流オペレーションを担うムービング様を通じてロジザードも貢献したいと思います! 矢作様、貴重なお話をありがとうございました。

導入事例

ムービング様ではクラウドWMS(倉庫管理システム)「ロジザードZERO」をご利用いただいています。
導入事例はこちら:https://www.logizard-zero.com/cases/moving.html

ムービング様会社概要

社名:株式会社ムービング
代表:代表取締役社長 伊賀山真行
本社所在地:〒335-0032 埼玉県戸田市美女木東2-5-1
設立:1960年10月25日
事業内容:貨物自動車運送事業、荷役梱包業、貨物運送取扱
HP:https://www.moving.co.jp/