COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

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最終更新日:2025/09/05 DXシステムメーカー・製造業

WESで段階的自動化を実現!倉庫DXを成功に導くスモールスタート戦略とは

WESで段階的自動化を実現!倉庫DXを成功に導くスモールスタート戦略とは

いまや物流現場の効率化は「ロボティクス×DX」の時代を迎えています。しかし、最新マテハンを業務に合わせて一挙に導入する全体最適のための自動化は、中堅・中小の倉庫にとって高コスト・高リスクです。――そこで注目されるのが WES(Warehouse Execution System)をハブにした「段階的自動化=スモールスタート」 という選択肢です。WESは倉庫内の人と機械をまとめる司令塔となり、一機種ずつ設備を増やしてもシステム改修を最小限に抑え、導入スピードと柔軟性を両立します。本コラムでは、株式会社YE DIGITAL(以下、YEデジタル)社の倉庫自動化システム(WES)「MMLogiStation」を例に、倉庫DXを成功に導く段階導入のメリットと具体的ステップを解説。初期投資を抑えつつ、確実に成果を積み上げる "現場主導の自動化戦略" をご紹介します。

導入:なぜ"いきなり全自動化"は難しいのか?

近年、物流現場ではロボティクス技術の進歩により、倉庫業務の自動化が大きな注目を集めています。商品のピッキングや仕分けにロボットを導入した"倉庫DX"の事例も報じられ、業界全体でデジタルトランスフォーメーションへの期待が高まっています。しかし、中堅・中小の物流企業にとって、最新技術を駆使した「いきなり全自動化」の実現は容易ではありません。その理由の一つが、初期投資コストの大きさと導入リスクの高さです。最先端の自動化設備を一挙に揃えるには莫大な資金が必要であり、投資回収の見通しが不透明な中で思い切った判断を下すのは難しいでしょう。また、一度に複数の自動化機器を導入してしまうと、段階的に効果検証をしながら改善していくことができず、問題発生時のリスクも大きくなります。

言い換えれば、小規模な現場ほど「まずやってみて効果を確かめたい」というニーズが強いにも関わらず、いきなり全自動化ではそれが叶わないのです。加えて、現場のオペレーションを一夜で大きく変革することは、現場スタッフへの負担が大きく「現場にフィットしない」可能性もあります。これらの理由から、中堅規模の倉庫では初期コストを抑えつつリスクを低減できる段階的なアプローチが求められています。

スモールスタート型自動化とは?部分最適ではなく"未来を見据えた第一歩"

そこで注目されているのが、スモールスタート型の倉庫自動化戦略です。スモールスタートとは、その名の通り小さく始めることですが、単なる「部分最適の導入」で終わらせない点が重要です。一つのマテハン機器(自動化設備)を導入して業務の一部だけを自動化すること自体は難しくありません。しかし、それだけで満足してしまっては将来的な全体最適にはつながりません。スモールスタート型自動化の本質は、倉庫全体の自動化というゴールを見据えつつ、まずは一機種から段階的に導入を進めることにあります。例えば、将来的に複数のロボットや自動倉庫を組み合わせて自動化を目指したい場合でも、初めからすべてを入れるのではなく、まずは1種類の機器から導入してみるのです。このように小さく始めれば、現場へのインパクトを抑えつつ効果検証が可能で、得られた知見を次のステップに活かすことができます。

もっとも重要なのは、全体最適(倉庫全体の効率化)を前提とした部分導入であることです。ただ目先の業務を自動化して終わりではなく、「次はどの工程を自動化するか」「最終的にどんな倉庫を実現したいか」という中長期のビジョンを持って一歩目を踏み出す点が、単なる部分最適導入と異なります。日本では2018年ごろからこの段階的アプローチを支えるためのIT基盤として、WES(Warehouse Execution System)が存在します。WESは後述の通り倉庫内の機器連携や業務最適化を司るシステムで、スモールスタートによる段階的な自動化を進める上で欠かせない"頭脳"の役割を果たします。中堅企業にとって現実的かつ有効な物流DXの第一歩が、このWESを活用したスモールスタート戦略なのです。


WESの「プラグイン」方式がもたらす拡張性

では、WESとは具体的に何をするシステムなのでしょうか。WES(Warehouse Execution System)は、日本語では「倉庫運用管理システム」などとも呼ばれ、倉庫内の人と機械を統合的に制御・管理するプラットフォームです。WMS(倉庫管理システム)と連携して在庫データや出荷指示を受け取り、現場のマテハン機器(自動倉庫、コンベヤ、AGV搬送ロボット、ピッキングロボット、ソーター、フォークリフト等)に具体的な動作命令を出したり、人が携わる業務にリアルタイムの指示を送ったりします。いわばWMSと現場(ヒト・モノ・機器)をつなぐ「専属通訳」のような存在であり、倉庫の頭脳として全体最適なオペレーションを実現するのがWESの役割です。

中でも注目すべきなのが、WESの「プラグイン」方式による柔軟な機器連携です。たとえばYEデジタル社の倉庫自動化システム(WES)「MMLogiStation」では、予め多様な自動化設備とのインターフェースがプラグインとして標準搭載されており、新しい機器を導入する際にも容易にシステムに組み込めます。これは裏を返せば、「あるメーカーの機器しか繋がらない」「新しいマテハンを追加するたびWMSを改修しなければならない」といった従来の課題を解消し、メーカーに依存しない柔軟な自動化を可能にすることを意味します。実際、MMLogiStationの機器連携プラグインは、2025年度中に12機種に対応するとのことで、今後も年間5機種ペースで新たな連携対象を増やしていく計画だといいます。このプラグイン方式のおかげで、倉庫に新しいロボットを追加したい時でも短期間かつ低コストでシステム対応でき、WMS本体のカスタマイズも最小限で済みます。WESがハブ(司令塔)となって各種機器を繋ぐことで、結果として初期導入のハードルを下げつつ将来の拡張性を確保できるのです。

さらにWESはプラグインの追加による機能拡張だけでなく、現場オペレーションの一元化・支援という観点でも優れた拡張性を持っています。通常、メーカーごとに異なる操作画面や手順が必要となる自動機器も、WES側で統一的な操作画面を提供することで作業方法を標準化できます。YEデジタル社の発表によれば、MMLogiStation上で「GTP(Goods To Person)向け作業画面モジュール」を提供し各機器のピッキング操作を共通化した結果、複数の画面を使い分ける必要がなくなることで作業効率の向上に繋げます。同様にハンディターミナル(ハンディ端末)の操作もWESで一元管理することで、機器ごとに異なる運用ルールを現場スタッフが覚える必要がなくなり、教育コストの削減やヒューマンエラーの防止につながります。このようにWESのプラグイン方式とオペレーション支援機能は、単なるシステム連携に留まらず「現場にフィットする」自動化をスピーディーに実現するカギとなっています。

実例に学ぶ:段階導入パターンとその進め方(1機種→2機種→3機種)

では、スモールスタートによる段階的な自動化導入は具体的にどのように進めるのでしょうか。ここでは「1機種導入→2機種導入→3機種導入」と、設備を順次追加していくパターンを想定し、その進め方と効果を考えてみます。

第1段階(1機種目の導入)

最初のステップでは、現場の課題に対して効果が比較的分かりやすくROI(投資対効果)が見込める自動化機器から導入するのが一般的です。例えば、「ピッキング作業に時間がかかって出荷が遅れている」という課題があるなら、最初の導入機器として自動倉庫(AS/RS)やGTPピッキングシステムを選ぶ、といった具合です。WESを導入済みであれば、新しい機器との接続はプラグインを有効化することで短期間に実現できます。最初の1機種導入によってピッキング作業時間が短縮され、在庫管理も自動化されるといった定量効果が得られれば、現場の従業員や経営層にとっても自動化の有用性が具体的に実感できるでしょう。また、この段階でWESがデータ収集基盤として機能し始める点も見逃せません。WESは人・モノ・機器の動作データをリアルタイムに蓄積できるため、導入機器の稼働状況や業務効率を「見える化」し、次なる改善策の検討材料を提供してくれます。こうした効果測定ができるのも、一度に全自動化するのではなく段階導入するメリットと言えるでしょう。

第2段階(2機種目の追加導入)

最初の機器で成果が出たら、次に別の工程の自動化に着手します。例えば、第1段階で導入した自動倉庫でピッキング効率は上がったものの、「ピッキング後の商品を仕分け・梱包する工程で依然ボトルネックが残っている」なら、第2段階では仕分けロボットや自動梱包機を導入するといった判断が考えられます。ここでもWESが力を発揮します。WESによって現場の各作業が既に一元管理されデジタル化されているため、新たな機器の稼働データや命令系統もスムーズに既存システムへ統合されます。具体的には、WESのプラグイン追加により2機種目の連携設定を短期間で行え、WMSと新旧両方の機器をシームレスにつなぐことができます。また、WES上で現場スタッフ向けの操作画面や手順が統一されているため、新しい機器が増えても現場スタッフは「いつもの画面」で作業を続行可能です。このように2機種目を追加してもオペレーションの混乱を最小限に抑えられることが、WESを活用した段階導入の強みです。さらに、複数の機器から集まったデータがWES上で統合されることで、1機種目だけでは見えなかった倉庫全体のボトルネックが新たに浮き彫りになる場合もあります。「どの工程に何人配置すればよいか」「機械と人との役割分担をどう最適化するか」といった次なる改善テーマが明確になるため、第3段階への布石が打ちやすくなるでしょう。

第3段階(3機種目の追加導入)

続いて、3つ目の自動化機器を導入します。例えば、無人搬送ロボット(AGV)を導入してピッキングエリア間の搬送を無人化したり、自動フォークリフトを導入して重いパレットの移動や棚への補充を無人化したりする段階です。ここまでくると倉庫内の主要な工程で人手を介さない流れがだいぶ構築され、現場スタッフはより高度な管理業務や例外対応に専念できるようになります。第3段階でもWESの柔軟性が大いに役立ちます。例えば新たに導入する自動フォークリフトが、従来とは異なるメーカー製であってもプラグイン対応により迅速にWESへ接続可能です。実際、2025年8月にはYEデジタル社としても初の試みとなる自動フォークリフト連携をしており、これまで自動倉庫・ソーター・AGVといった機器連携の実績を積んだ同社でも「フォークリフトは特殊な独立型で新たなチャレンジになる」と位置付けています。このケースでは、まず大きな負荷がかかるメイン工程ではなく夜間の棚補充運用といった場面から自動フォークリフトを活用する計画とのことです。具体的には、日中に人手で行うには難しい夜間帯のパレット搬送・補充作業をロボットに任せ、例えば自動倉庫から必要な在庫を取り出して所定の棚に補充するといった工程を無人化しようとしています。このように段階を追って新しい機器を導入していけば、各段階で現れた課題に対応しながら着実に自動化範囲を拡大していくことができます。第1段階導入時には想定していなかったような高度なロボティクス活用も、第3段階まで進める中で現実味を帯びてくるでしょう。WESを中核に据えたスモールスタート戦略なら、一歩一歩着実に未来の「フル自動化倉庫」へ近づいていけるのです。


コスト・スピード・柔軟性の3拍子がそろうWES活用

以上で見てきたように、WESを活用したスモールスタート型の倉庫自動化には「低コスト」「スピード」「柔軟性」という3つの利点が揃っています。最後に改めてそのポイントを整理しましょう。

低コスト(初期投資の最適化)

一度に倉庫を全自動化する場合に比べ、段階導入であれば初期コストを大幅に抑制できます。必要な機器を一つずつ追加投資していくため無駄がなく、投資対効果を見極めながら次の資金投入を判断できます。さらにWESによって既存設備やWMSを活かした統合が図れるため、従来なら個別に導入していたシステムをWES経由で兼用でき、システム開発・改修コストの削減にもつながります。例えばMMLogiStation導入企業では、WESが複数機器のデータ収集と制御を担うことで、WMS側は在庫管理のロジック変更をほとんど必要とせずに自動化を実現できたケースもあります。これはWESが機器連携の負担を引き受けることで、結果的に全体の費用対効果を高めている好例と言えます。

スピード(短納期導入・拡張)

WESのプラグイン方式により、新しい機器とのシステム連携を従来よりも格段に早く構築できます。メーカー提供の標準インターフェースが用意されている場合はもちろん、たとえ初めて扱う機器でも過去に類似機器で培ったノウハウを活かして短期間でプラグイン開発が可能です。YEデジタル社によれば、「WESが入っているからこそ、新しいプラグインを活用して素早くステップアップできる」というように、WES導入済みであれば段階的な自動化のスピード感が飛躍的に向上するといいます。現場視点でも、WESにより複数の作業を一つの画面で扱えるため、機器追加時の操作教育に時間を取られずすぐに稼働できる点がスピーディーです。このスピード感は、変化の激しい物流ニーズに迅速に対応する上で大きな武器となるでしょう。

柔軟性(将来拡張と適応力)

WESを導入しておくことで、将来的なビジネス変化にも柔軟に適応できる倉庫体制を構築できます。新しいロボット技術やAIソリューションが登場しても、WESがハブとして標準インターフェースを提供していればスムーズに受け入れ可能です。また、物流量の増減に応じて設備を増強したり一時的に止めたりといった調整も、WES経由で全体を見渡して制御できるため、人員配置との組み合わせで柔軟に対応できます。言い換えれば、WES中心のシステムはモジュール式に進化できる倉庫を実現します。これは中堅企業にとって、将来の成長や不確実性に備えた保険のような役割も果たすでしょう。現状では倉庫内の一部しか自動化できていない企業も、まずWES基盤を整えておけば「どのように自動化を進めていけば良いか分からない」という悩みに対して具体的なロードマップを描きやすくなります。実績豊富なWESベンダーから他社事例を基にした提案を受けることもでき、スモールスタートから着実に自社にフィットしたロボティクス導入を進められるでしょう。

以上のように、WESを上手に活用することでコスト・スピード・柔軟性の三拍子がそろった形で物流現場のDXを推進できます。特に「自社の規模で自動化なんて無理では?」と半ばあきらめていた中堅企業にとって、WESは現実的かつ頼もしいソリューションとなるはずです。


まとめ:スモールスタートで始める"現場主導の物流DX"

倉庫の全自動化は一朝一夕には成し遂げられません。しかし、本コラムで述べてきたようにWESを軸に据えたスモールスタート型の自動化であれば、現場主導で無理なく一歩ずつDXを進めていくことが可能です。最初の一機種導入で得られた効果と現場のフィードバックを次の投資判断に活かし、段階的にシステムを拡張していくプロセス自体現場の納得感を伴った改善サイクルとなります。WESはそうしたプロセスを強力に支援し、各段階で発生するデータに基づくファクトベースの意思決定を後押しします。YEデジタル社の「MMLogiStation」のように信頼性の高いWESを導入すれば、将来の構想を描きつつ目の前の課題から着実に解決していくことができるでしょう。

最後に改めて強調したいのは、スモールスタート型の物流自動化は「ゴールからの逆算」であるという点です。闇雲に部分最適を積み重ねるのではなく、まず将来像として描いた全体最適な倉庫モデルに向けてロードマップを描き、その起点として最初の一手を打つ──これが失敗しない段階的自動化のコツです。その第一歩を支える技術基盤としてWESを活用し、現場の声を吸い上げながらプランを軌道修正していけば、たとえ中堅規模の企業であっても無理なく物流DXを実現できるでしょう。ぜひ皆さんも、"段階的自動化"というアプローチで自社倉庫の未来像を描き、WESとともにスモールスタートの一歩を踏み出してみてください。現場にフィットした形での着実な進化が、やがて大きな変革となって花開くはずです。


監修
浅成直也(あさなりなおや)
株式会社YEデジタル 物流DXシステム本部 副本部長 / MMLogiStation プロダクトオーナー

スマー トロジスティクスを推進する技術部長かつ事業拡大のマーケティングを牽引する。EC需要拡大の一方で、人手不足に悩む物流業界の課題解決のために、スピーディーに倉庫自動化を実現する倉庫自動化システム「MMLogiStation」を企画し、製品化。物流業界で培ったノウハウを活かし、各マテハンメーカーの自動化設備との連携も進め、さらなる機能向上に努めている。