COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
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最終更新日:2025/08/21 DXシステムメーカー・製造業

WESとは?WMSとの違いと物流自動化における役割を解説

WESとは?WMSとの違いと物流自動化における役割を解説

物流倉庫では、業務効率化のために様々なITシステムが導入されています。その代表が在庫管理や入出庫管理を担うWMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)です。さらに近年、物流の自動化が進む中で、WES(Warehouse Execution System:倉庫運用管理システム)と呼ばれるシステムにも注目が集まっています。一方、マテハン機器の制御を専門に行うWCS(Warehouse Control System:倉庫制御システム)も存在し、それぞれ役割が異なります。本コラムでは、WMS・WES・WCSの定義と役割を明確にし、WMSとWESの違いに焦点を当てて解説します。また、物流自動化の現場でWESが果たす重要な役割についてもご紹介します。

WMS・WES・WCSの定義と役割

まず初めに、WMS・WES・WCSそれぞれがどのようなシステムなのか、その基本的な定義と役割を整理します。

WMS(倉庫管理システム)の役割

WMS(Warehouse Management System)は、日本語で「倉庫管理システム」と訳され、倉庫内業務の包括的な管理を担うソフトウェアです。具体的には、在庫や入出庫の管理、ロケーション管理(棚や保管場所の管理)、など、倉庫業務に関わる幅広い機能を持ちます。WMSは倉庫内の「モノの動き」――商品の入庫・出庫や棚卸・在庫更新といった在庫の出入りを管理することで、物流業務全体を最適化します。例えば入荷時の受け入れ処理から格納先の指示、出荷時のピッキングリスト生成や出荷指示、在庫情報のリアルタイム更新など、従来人手で行っていた業務をデジタル化・システム化することで、業務の正確性向上や効率化、コスト削減を実現します。また、WMSは他のシステム(会計や販売管理などのERPや通販で使われるOMSなど)とも連携し、企業全体で在庫や出荷情報を共有できる点も大きな特徴です。

WES(倉庫運用管理システム)の役割

WES(Warehouse Execution System)は「倉庫運用管理システム」と訳され、倉庫内のオペレーション全般の管理・制御を担うシステムです。WESはリアルタイムで倉庫内の作業状況や設備の稼働状況を把握し、最適な形で指示・制御を行う、「倉庫の頭脳」とも言える存在です。例えば、コンベヤ、仕分け機、AGV(無人搬送車)、ピッキングロボット、フォークリフトなど、様々なマテハン機器の動きを監視し、指示を出します。また倉庫スタッフの動きや進捗データもリアルタイムで収集・見える化し、人と機械が調和して効率良く働けるよう調整します。WES導入により、これまで取得が難しかった機械やスタッフの詳細なデータを蓄積できるため、倉庫内のムリ・ムダを洗い出しボトルネックを発見するといった効果も期待できます。WESの主な機能は倉庫内の各作業のオペレーション管理であり、必要に応じて機器やハンディターミナルと連携して在庫情報や業務のデータを収集し、スタッフに適切なリアルタイム指示を端末経由で送ることも可能です。これにより倉庫内の人・モノ・機器すべてを統合的に管理し、全体最適な動きを実現するのがWESの役割です。

WCS(倉庫制御システム)の役割

WCS(Warehouse Control System)は「倉庫制御システム」と呼ばれ、倉庫内の自動化設備や装置を直接制御・監視するためのシステムです。WCSは位置付けとしては機械制御の専任者であり、上位のWMSやWESからの指示を受けて、コンベヤやソーター、AS/RS(自動倉庫)、ロボットアーム、AGVなどの各種マテハン機器に対しリアルタイムで動作命令を送ります。例えば、コンベヤの分岐点で荷物をどちらのラインに流すか、ソーターがどのシュートに商品を仕分けるか、といった判断を即座に下し機器に指示するのはWCSの役割です。WCSの主な機能は設備の制御・監視であり、人手を介さず機械の動作を集中管理することで、倉庫内の「交通整理役」を果たします。そのためWCSの管理対象は機器(設備)に特化しており、人が行う作業の管理機能は持たない点でWMSやWESと異なります。WCSは基本的に機械制御の領域に限定されたシステムです。

WMSとWESの違い:計画と実行

上述のように、WMSとWESはいずれも倉庫内の業務を管理するシステムですが、その役割の焦点が異なります。端的に言えば、WMSが「業務の計画と管理」を担うのに対し、WESは「業務の実行と最適化」を担う点に違いがあります。以下、いくつかの観点でWMSとWESの違いを整理します。

管理対象の違い

WMSは在庫や入出庫情報など「モノ(商品)の出入り」に着目して管理します。一方、WESは「ヒトの作業と機器の動作」を含め倉庫内オペレーション全体を管理対象に含めます。簡単に言えば、WMSは「何がどこにあるか」を管理し、WESは「それを誰がどう動かすか」まで踏み込んで管理するイメージです。

リアルタイム性の違い

WMSは主に在庫データの更新や出荷計画の立案などトランザクション中心のシステムで、定期バッチやスケジュールに沿って動く部分もあります。それに対しWESは、リアルタイムに発生する作業や機器の状態変化に即応して判断・制御を行います。例えば、ある注文のピッキング作業が完了した瞬間に次の作業指示を出したり、機器の空き状況を見ながら作業ボリュームをコントロールするなど、状況に応じたオペレーション最適化を担うのがWESです。

意思決定範囲の違い

WMSは倉庫全体の在庫最適化や出荷スケジュールなどマクロな計画を立てますが、その計画を具体的なタスクにブレイクダウンして振り分けるのがWESの役割です。つまりWMSが「何をいつまでに出荷するか」を決め、WESが「どの設備を使い誰がどの順序で出荷作業を行うか」を判断して指示するといった協調関係になります。WMSとWESが両方導入される倉庫では、両者が適切に連携・通信することで在庫情報から現場の業務までシームレスにつなぐことが重要です。

WCSとの関係

従来、WMSと現場の自動化機器の間はWCSが埋めていましたが、WCS単独では複数機器や人員を跨いだ最適化までは手が届きません。WESはWCSと連携しつつ、人も含めた包括的な調整を行う点で、従来にはない役割を果たします。WMSがWESに高レベルの指示(例:「注文Aのピッキングを開始せよ」)を出し、WESがそれを細分化してWCS経由で各機器へ具体指示(例:「自動倉庫から商品Xを取り出せ」等)を出す、というのが典型的な流れです

参考:WMS・WES・WCSの関係性について、WMSはモノの出入り、WCSは設備動作、WESは両者をつなぎ人も含めた全体管理を行うと整理できます。

以上のように、WMSとWESは協調して動くものの、WMSは計画・管理のシステム、WESは実行・制御のシステムとして棲み分けられています。言い換えると、「WMSが立案した作業計画を、WESが現場で実行に移す」という関係であり、両者の連携によって初めて倉庫全体の最適化が達成されます。

物流自動化におけるWESの役割とメリット

近年、物流現場ではロボット導入など自動化の波が加速しています。その中でWESは、従来のWMSだけでは対応が難しかった自動化設備との連携やリアルタイム制御を実現し、物流自動化を下支えする重要な役割を担っています。具体的に、WESが物流倉庫の自動化にもたらす主なメリットを以下にまとめます。

各種機器のスムーズな連携(機器連携)

WESは様々なメーカーの自動倉庫、仕分けロボット、搬送機器などと接続し、それらを統一的に制御できます。例えば、株式会社YE DIGITAL(以下、YEデジタル)社の倉庫自動化システム(WES)「MMLogiStation」(https://www.ye-digital.com/jp/product/mmlogi/)では、予め多様な設備とのインターフェースをプラグインとして標準搭載しており、新しい機器を導入する際も容易にシステムに組み込めます。これにより「特定メーカーの機器しか使えず拡張しにくい」「機器追加のたびにWMSを大幅改修しなければならない」といった課題を解消し、メーカーに依存しない柔軟な自動化を実現します。WESがハブとなって機器を繋ぐことで、WMS本体の負担やカスタマイズを最小限に抑えつつ倉庫機能を拡充できる点は大きなメリットです。

現場業務の支援と標準化(オペレーション支援)

WESは倉庫のスタッフをサポートする機能も備えています。例えばピッキング作業の画面統一はその一例です。自動倉庫やGTP(Goods To Person)システムを導入した現場では、本来メーカーごとに異なるピッキング指示画面を機器ごとに使い分ける必要があり、作業者の負担となっていました。WES側で指示画面を共通化することで、どの機器を相手にしても同じ操作画面・手順でピッキング作業が行えるようになります。YEデジタル社の発表によれば、WES上で「GTP系作業画面モジュール」を提供しピッキング画面を共通化した結果、複数画面の使い分けが不要となることで作業効率の向上に寄与します。同様に、作業者が使用するハンディターミナルでの操作もWESで一元管理・統一することで、機器ごとに異なる運用を覚える必要がなくなり、教育コストの削減やヒューマンエラー防止につながります。これらのオペレーション支援機能により、WESは現場の使い勝手を向上させ作業標準化を促進します。

データ活用と可視化による最適化(データ活用)

WESが持つもう一つの強みは、倉庫内のあらゆるオペレーションデータを収集・蓄積できることです。人や機械の動きに関する詳細なデータがWES上に集約されるため、それらを分析して業務改善に役立てることができます。例えばWESのダッシュボード機能により、各工程の機器稼働状況や作業進捗をグラフィカルに表示して、現場管理者が一目で状況を把握できるようになります。ボトルネックになっている工程があれば即座に気づき改善策を講じる、といったPDCAサイクルを回しやすくなるでしょう。また将来的には蓄積データを活用してデジタルツイン(サイバー空間上で倉庫の仮想モデルを再現)を構築し、シミュレーションで最適なオペレーションを検討するといった高度な取り組みも可能になります。このようにデータ活用基盤としてもWESは大きな価値を発揮し、倉庫の継続的な効率改善やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に寄与します。

以上のように、WESはWMSと現場(人・機器)をつなぐ司令塔となり、物流倉庫の自動化を加速・高度化する鍵となる存在です。従来WMSだけでは対応しきれなかったリアルタイム制御や多様な機器連携、そして作業者支援までカバーすることで、倉庫全体の最適化(業務全体の最適化)を実現します。その結果、WMS・WES・WCSを適材適所で組み合わせて活用することで、在庫管理から現場作業までシームレスにつながったスマート倉庫を構築できるのです。


まとめ

本コラムでは、WMS・WES・WCSの定義と役割、特にWMSとWESの違いについて解説しました。WMSは倉庫内のモノの動きを管理し計画立案を行うシステム、WESは人と機械を含めた業務の実行を最適化するシステム、そしてWCSは機械制御に特化したシステムです。それぞれ役割は異なりますが、目的に応じて適切に使い分け、あるいは組み合わせることで倉庫全体の生産性向上に貢献します。特にWESは近年普及し始めた新しいソリューションであり、物流現場のDXを進める上で欠かせない存在となりつつあります。WMSとWESを導入し現場の自動化設備と連携させることで、在庫の適正化からリアルタイムな作業制御、データに基づく継続的改善まで一貫して行えるようになります。倉庫の更なる効率化・高度化を目指す企業にとって、WESは今後ますます重要な役割を果たすでしょう。今後WESの認知が拡大し、多くの現場で活用されることで、物流業界全体のスマート化が一層進むことが期待されます。


監修
浅成直也(あさなりなおや)
株式会社YEデジタル 物流DXシステム本部 副本部長 / MMLogiStation プロダクトオーナー

スマー トロジスティクスを推進する技術部長かつ事業拡大のマーケティングを牽引する。EC需要拡大の一方で、人手不足に悩む物流業界の課題解決のために、スピーディーに倉庫自動化を実現する倉庫自動化システム「MMLogiStation」を企画し、製品化。物流業界で培ったノウハウを活かし、各マテハンメーカーの自動化設備との連携も進め、さらなる機能向上に努めている。