COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

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最終更新日:2025/09/16 EC・通販事業者メーカー・製造業専門用語運輸業・倉庫業(3PL事業者)

「自動物流道路」とは?2030年代に始まる物流専用道路が描く未来像

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無人運転の車両が整然と隊列を組みながら、大量の荷物を次々と運んでいく――。先人の思い描いた近未来の姿を実現するかもしれない施策が、本格的に動き出そうとしています。国土交通省は7月31日、「自動物流道路」(オートフロー・ロード)の在り方に関する最終のとりまとめを公表し、2030年代半ばまでに小規模な改良で対応が可能な区間での運用を始める方針を明らかにしました。構造的に抱える諸問題を解決し、持続可能な社会インフラとしての機能を確立できる有効な施策となるのか、考えてみましょう。

自動物流道路の全体像

自動物流道路の定義

自動物流道路の在り方について考える前に、その定義を明らかにしておきます。国土交通省は、スローガンを「『危機』を『転機』に変える自動物流道路」と設定。自動物流道路を「道路空間に物流専用のスペースを設け、クリーンエネルギーを電源とする無人化・自動化された輸送手段によって荷物を運ぶ新たな物流システム」と定義しています。

それでは、国土交通省がかかげる自動物流道路の具体的なイメージとは、どのようなものなのでしょうか。

東京―大阪間で2030年代半ばにも実現目指す

まず、基本的なコンセプトについて、「『道路空間を活用して専用空間を構築』し、かつ『デジタル技術を活用して無人化・自動化された輸送手法』により荷物を輸送」「輸送空間を保管のためにも使用する『バッファリング機能』による物流需要の平準化」を掲げています。

つまり、高速道路など既存の道路に物流機能を担う専用スペースを整備し、自動で走行する車両を活用して荷物を運ぶ、さらには荷物の積み込み・荷卸しの機能も含めた最適化を図る取り組みであると言えるでしょう。

さらに、具体的な想定として、小口・多頻度で輸送される荷物を対象とし、標準規格であるT11型サイズのパレットに積載した荷物を輸送単位とする、としています。荷姿の基準を揃えることで、より効率的な輸送体系を実現しようとしていことがうかがえます。

導入区間は、物流量が最多である東京―大阪間で、新東名高速道路の建設中の区間などでの実験を踏まえて、小規模な改良で実現が可能と考えられる区間を軸に10年後の2030年代半ばの実現を目指しており、1日あたり 1万2000~3万5000台のトラックに相当する輸送力を確保できると試算しています。さらには、関東・東関東や兵庫県などへの運用区間の拡大も検討していくとしています。


自動物流道路の検討の背景

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今後も主役を担うトラック輸送

我が国における陸上での物流機能は、鉄道からトラックへとシフトしてきた歴史があります。生産者から消費者へ荷物を効率的に届けるために、トラック輸送は非常に大きな貢献をしてきました。トラック輸送を基軸に、鉄道や船舶、航空といった多様な輸送モードを最適な形で組み合わせることで、全国レベルでの物流網を完成してきたのです。

ところが、こうした過程で様々な問題も浮き彫りになってきました。トラック輸送の担い手であるドライバーや荷役従事者の不足、さらには温室効果ガスの排出による環境へのダメージといった、持続可能なインフラとしての機能を維持できなくなることへの懸念が、見逃せない社会問題になってきたのです。

解決すべき2つの問題点

我が国における物流システムは、トラック輸送を基軸に進化してきました。その潮流は今後も継続していくであろうというのが、現実的な見方でしょう。むしろ、トラック輸送を主体としたシステムが抱える問題点の解決こそが、持続可能な物流機能の維持・強化を促す「解」であると考えるべきだと考えます。

こうした視点から、持続可能な物流システムの構築を図ろうとする取り組みが、この自動物流道路なのです。

国土交通省はこの自動物流道路を検討するにあたり、解決すべき2つの問題点として、「人口減、時間外労働規制に伴うトラックドライバーの不足」「カーボンニュートラル実現に向けたCO2排出量の削減」を挙げています。

担い手不足による物流システム停滞を回避する方策として

まず、トラックドライバーの不足については、2030年度に9億トン相当の輸送力が不足すると推計し、その対応が物流システムの維持に不可欠であるとしています。

荷主を含めたトラック輸送の現場では、輸送事業者自動車運転業務の時間外労働時間を年間960時間までとする規制を巡る「2024年問題」への対応が、大きな関心事となりました。いわゆる「働き方改革」の機運が産業界全体で高まる現状において、よりよい就業環境を確保するためには、こうした規制への適切な対応は、避けて通れない取り組みです。

少子高齢化の進行で次世代を担う若手の確保がより難しくなっている実情も、人材確保に苦慮する現場の混乱に拍車をかける中で、物流システムを維持するにはどうすればよいでしょうか。政府や輸送業界は、社会生活を支える物流現場の魅力を喚起する取り組みを進める一方で、いわば「人間に頼らない」物流システムの構築を模索してきました。この自動物流道路という発想は、後者の観点で物流機能の確保を図ろうとする取り組みなのです。

カーボンニュートラル実現への対応策として

現場の担い手不足に対するアプローチとともに、トラック輸送業界が直面する問題、それはカーボンニュートラル(脱炭素)実現に向けたCO2排出削減への対応です。

政府は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた「グリーン成長戦略」を推進しています。一方で、産業界に対しては、CO2を含む温室効果ガスの排出削減を求めています。とりわけ、その重点的な対象と位置付けられているのが、トラック輸送をはじめとする物流業界です。

荷物輸送モードの主役であるトラックは、EV(電気自動車)の導入の機運が高まっているとはいえ、やはり当面はディーゼルエンジンなど内燃機関の車両が中心であり続けると想定されます。

車両メーカーは排出ガス削減や燃費向上に貢献する技術開発を進めていますが、将来的には、クリーンエネルギーによる輸送トラックの開発・普及を推進していく戦略を加速していく必要があるのも事実でしょう。こうした方向性を確立していくためにも、自動運転を前提とした専用道路の導入は、有効な方策であるというわけです。


自動物流道路は物流システムをどう変えるのかく

物流専用の道路がもたらすメリットは

ここからは、自動物流道路の実現により、我が国の物流システムはどう変わるのか、考えていきます。まずは、自動物流道路の持つ機能について整理してみましょう。

自動物流道路は、無人化・自動運転を前提とした物流専用道路です。つまり、「自動」「物流(専用)道路」の2つの要素で成り立つインフラであると考えることができます。ここでは、これら2つのキーワードをよりどころに、自動物流道路がもたらすと期待できるメリットについて、検証します。

自動運転を前提とすることで生まれる利点

無人で走行するトラックが荷物を運ぶ仕組みが整備されることにより、解決すると考えられる最大の問題は、担い手不足による物流停滞の懸念が緩和されることです。さらには、ドライバーの長時間にわたる拘束からも解放され、よりよい就労環境の実現にも貢献すると考えられます。環境対応車両の導入を促す契機になるメリットもあるでしょう。

さらに検証を進めて、物流システム全体の利点について考えてみましょう。ここでポイントになるのが、「輸送空間を保管のためにも使用する」というコンセプトです。

トラック輸送は、高速道路などを走行することによる荷物の「移動」に加えて、倉庫での積み込みや荷卸しによる、いわゆる「保管」業務も担っています。こうした機能についても、搬送機器の高機能化による自動での作業が実現すれば、基本的に人間の作業が介在しない自動制御による物流システムを構築できることになります。

さらに、他のインフラとの連携も不可欠になるでしょう。物流倉庫や高速道路のインターチェンジに結節する道路における、自動運転トラックの走行・乗り入れに対応できるシステムの導入を進める必要があります。ITシステムの領域で成果を最大化するために不可欠な「全体最適」の考え方が、ここでも重要になってくるのです。

こうした発想に基づく物流インフラ整備は、すでに始まっています。三菱地所は、完全自動運転トラックなど次世代モビリティの受け入れを視野に入れた中核物流拠点の開発を、京都府城陽市で進めています。国内で初めてとなる、高速道路インターチェンジに直結した専用ランプウェイを整備した「次世代基幹物流施設」として、2026年の完成を目指しています。

「物流専用道路」の有効性

首都圏と中京圏、関西圏を相互に結ぶ高速道路は、深夜ともなれば大型トラックが競い合うように駆け抜ける、まさに「トラック銀座」の様相を呈しています。一方で、深夜以外の時間帯は、乗用車を含めた様々な車両が、限られたスペースを分け合いながら目的地を目指して走行しています。年末年始やお盆シーズンともなれば、規制や行楽地へ出かける車で大混雑。安全で環境にも優しい輸送を実現するために、「もしもトラック専用の道路空間があれば」と想像したことのあるドライバーも少なくないでしょう。

こうした観点から、政府などは物流専用道路の整備に向けた検討を進めてきました。国土交通省は、2025~26年度に茨城県の実験施設でトンネルと直線道路の試験走行を実施。2027年度には新東名高速道路の一部区間での実験を想定しています。

あくまでも想定ですが、中央分離帯を物流専用車線に転用するなどしてスペースを確保することになるでしょう。国土交通省は、既存の道路を活用して整備する方針を掲げており、2030年台半ばまでに整備を進めたい考えです。

「国土強靭化」の観点も

こうした物流専用道路の確保は、社会の様々な経済活動の最適化を促すでしょう。さらに、忘れてはならないのが、災害時における輸送インフラの確保という観点です。

日本列島は、巨大地震や大規模水害といった大規模災害の危機に瀕しています。こうした災害が発生した場合に、サプライチェーンへのダメージを最小限に食い止めるとともに、迅速に復旧できることが、早期の復興には不可欠です。

こうした事態への対応力をより高めるために、自動物流道路は大きな威力を発揮すると考えられます。三大都市圏の道路輸送インフラは、現時点で複数の高速道路がほぼ完成しており、新東名高速道路と伊勢湾岸自動車道、新名神高速道路は災害時の基幹物流ルートとしての使命が期待されています。

こうしたルートに自動物流道路が整備されるならば、より現実的な物資輸送の手段が確保されることになります。トラック走行と荷役の無人化・自動化が維持されることになれば、24時間体制の物流システムが被災地への物資提供や経済活動の再開に向けた大きな推進力となることでしょう。


自動物流道路の整備に向けた取り組み

導入プロセスのイメージ

国土交通省は、自動物流道路の実現に向けた取り組みについて、実証実験を段階的に実施していく計画を立てています。技術的な評価を進めるとともに、具体的な輸送ルートを選定した上で、民間事業者と連携しながら、安全面と事業効率化の検証を重ねて、導入につなげていくイメージです。

とはいえ、社会資本の整備であるからには、コスト面の精査が重要な検討ポイントとなります。となっています。新たな道路建設でないとしても、一定の規模の拠出は避けられず、初期投資をいかに回収するかが鍵となるでしょう。社会的便益と投資効果の定量的な評価を進めるとともに、段階的な導入により初期投資リスクを分散させるなどして、実証結果に基づいた投資を判断できる仕組みの構築も大切になってきます。

ロジスティクス改革へつなげる好機に

現状の物流システムが抱える諸問題を解決する取り組みとして、産業界で高い注目を集める自動物流道路。物流インフラを劇的に変えるポテンシャルを持つ壮大な取り組みが、10年後の実現に向けて動き出しました。

我が国における物流の歴史を変えるほどのインパクトを持つと言ってよいこの施策を、より実のあるものとするために欠かせないポイントとなるのが、「他の輸送モードとの円滑な連携」と「荷主を含めた物流従事者の意識改革」の2点です。

自動物流道路の強みを最大化するためには、他の輸送モードとのシームレスな連携が必要でしょう。鉄道の貨物ターミナルや空港、港湾といった、他の輸送モードの物流拠点における結節機能の強化が、自動物流道路の整備によるトラック輸送の効率化をさらに促すのは間違いないでしょう。なぜなら、物流はネットワークが強固になって初めて、機能を発揮するものだからです。

こうして自動物流道路が真に利用者にとって使いやすい物流システムになれば、自動物流道路とそれに付随する輸送機能について、荷物の規格や物流管理システムなどの「標準化」が進むことになるでしょう。パレットの規格統一は、その好例です。

こうした標準化を推進するためには、荷主や物流従事者の柔軟な対応が欠かせません。こうした関係者の理解と新たな商慣行への対応があって初めて、自動物流道路はその真価を発揮することができるのです。


まとめ

社会に不可欠なインフラである物流機能の持続的な確保と強化を図る上で、大きな意味を持つ自動物流道路の構想が、実現に向けて動き出しました。南海トラフ巨大地震をはじめとする大災害の発生時の、経済活動へのダメージを最小限に抑えながら、速やかな復興を実現するための命題は、物流インフラの強靭化です。こうした観点から、自動物流道路の実現はまさに「国難」に正面から対応した取り組みであると言えるでしょう。

同時に、変化し続ける経済動向へ柔軟に対応できるサプライチェーンの構築は、我が国のさらなる発展に欠かせない取り組みです。人口減少が加速する時代を迎えている今こそ、ロジスティクスのあるべき姿をゼロベースで追求するステージに来ているのではないでしょうか。

こうしたロジスティクスの地殻変動に直面する今、「危機」を「転機」に変える改革が必要です。その第一歩となるのが、自動物流道路なのです。

この記事のライター

Shima N.

一般紙をはじめ各種メディアで取材・執筆活動に従事。
企業の広報・IR担当の経験も踏まえて、産業界の多様な領域に人脈を持つ。
運輸・物流領域に強みあり。