COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム
物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。
物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。
日系企業の海外進出国として人気の高いタイ。そんなタイに拠点を持つ企業の約8割が、進出後に何らかのトラブルを経験しており、現地スタッフによる不正行為もその中の一つです。企業の成長を思い描いて進出した海外で、不正行為などのトラブルに見舞われないようにするにはどうしたらよいのでしょうか?タイにおけるビジネスに詳しい株式会社マルチブックのマーケティング担当福島様に、現地では実際にどのような「不正」等のトラブルが起こっているか、また不正等のトラブル防止のためにすべきことについて、教えていただきました。
(お話をお伺いした株式会社マルチブック マーケティング担当 福島夢乃氏)
マルチブックでは、タイの経済情報誌「ArayZ」と共同で、タイに進出する日系企業に向け、現地法人で体験した様々なトラブル事例の調査を行い、2022年2月にレポートを同誌で発表しました。
寄せられた回答からは、タイ進出後3年以内にトラブルを経験した企業が半数近くを占め、実に8割を超える企業が何らかのトラブルを経験していることが分かりました。経過タイミングの回答内容から推測すると、海外拠点での活動が現地のスタイルに慣れて落ち着いたころに、トラブルが発生しやすいようです。
トラブルの内容においては、以下の回答を得ました。
アンケート結果からは、多くの企業の海外拠点で、様々なトラブルが発生していることが見えてきました。
労務トラブルで多いのは、現地社員との労働条件や解雇にまつわるトラブルです。タイでは労働者保護の考えが強く、企業側に負担を求める法制度が存在します。こうした背景を理解したうえで、特にしっかり対応しておきたいのが、日本本社とタイで相互に正しく翻訳した就業規則や契約書類を準備することです。日本本社で利用している規程をタイ語に翻訳する際は、特に注意が必要です。よくあることですが、日本企業や日本語表現にありがちな、比較的簡潔に書かれた具体性に欠ける規程類は、現地語への翻訳により本来意図していなかった内容になっているケースが見受けられます。
会計/税務トラブルでは、現地スタッフへの依存に起因するものが多く報告されました。売掛金の未回収(27.1%)、VAT(※)の還付遅延(22.0%)、税務調査(20.3%)、決算遅延や決算訂正など、現地の経理担当者任せでブラックボックス化した結果、後手に回っているケースです。悪しきことですが、こうした問題は現地スタッフが退職する際、初めて明るみに出ることが多いのです。
驚くべきは、内部不正に関するトラブルです。回答企業の半数近く(46.7%)が経験していました。小口現金や棚卸し資産(在庫)の横領、贈収賄や給与の不正支払い、売上金の着服などが代表的な手口です。一般的に内部不正の事実が、公にされることは稀であり、企業内においてもその事実が共有化されることはありません。そのため多くの方が他人事に感じやすいかもしれません。その「問題が起きないことを前提にする」という日本人的常識は、海外では通用しないことを理解し、最初から積極的に経営管理の仕組みをつくることが重要といえるでしょう。
内部不正トラブルの具体的な事例
トラブルは海外進出後数年経過してから明らかになるケースが多く、海外展開後の継続的な拠点マネジメントの重要性がよく分かる結果となりました。しかも従来なら、本社の管理部門が海外の子会社や関係会社に直接訪問(出張)して確認、是正できたことが、コロナ禍による移動制限で難しくなり、本社側の内部統制のやり方も見直す時期にあります。
そもそもなぜ海外で不正が起きやすいのかについて理解が必要です。不正は「動機」、「機会」、「正当化」の3つの要因が揃ったときに発生する可能性が高まるといわれます。いわゆる「不正のトライアングル」と呼ばれるものです。「動機」とは金銭的な欲求や、経営からのプレッシャーなどにより、不正を行うインセンティブがある状態。「機会」は、適切な職務分離や内部統制のガバナンスが効かず、不正を行うことができる状態。そして、「正当化」は不正を正当化・許容する姿勢のことで、「これをやっても許される」と現地法人の経営者や従業員が考えてしまうような企業風土や価値観などを指します。親会社・国内子会社の状況と海外子会社の状況を比較してみると、企業風土や価値観が異なり、親会社と物理的な距離がある海外子会社の方が、これら3つの要因が揃いやすい環境にあります。
海外に進出する企業の多くが、潜在的リスクも含めて海外の子会社にどのような不正リスクがあり、それを防止・発見するために現地でどのようなオペレーションを行っているか、十分に把握できていないのが現状ではないでしょうか。「現地重視」や「スピード経営」という言葉の響きを優先し、実際の経営を現地に任せきりにする結果、その中身がブラックボックス化しているケースも多くみられます。
実際に、急速に海外展開を進めている企業には、次のような状況がみられることがあります。
子会社の体制やオペレーションを理解せず、経営を現地に任せきりにすることは、不正のトライアングルの要因が揃う環境を自ら整えているようなものです。
上場企業や大企業の場合、ガバナンスを強化するタイミングでグローバル規模の不正防止策を講じることが多く、比較的未然にトラブルを防止することが可能です。しかし中小企業の場合は、現地でトラブルが起きて初めてコトの重大さに気付き、その対策に翻弄されるケースが多くみられます。特に不正については、不正が起きない仕組み、発生しても早期に見つける仕組みを、先手を打って講じることです。具体的には、タイならばまずすべての伝票を管理可能なタイ語以外の言語(英語・日本語)で見られるようにする、ログを残す、高額出金にはアラートや承認機能を持たせるようにするなど、システム上で取引や会計処理を見える化しておくことが重要です。
以下は、不正防止のためのチェックリストです。特に会計管理に不安を覚える方は、ぜひお役立てください。
タイに限らずすべての拠点において、不正が起こりにくい土壌をつくること。防止策は、これに尽きます。特に海外の進出国によっては、不正や財務リスクが非常に高く、労務上では現地優位の法制度があることを認識してください。例えば、トランスペアランシー・インターナショナルという国際的なNGOから毎年発表される「腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index, CPI)」などを確認して、潜在的なリスクは知っておくとよいでしょう。「まさか不正はしないはず」「大丈夫だろう」というアバウトな感覚で管理をしてはいけません。海外進出時には、社内管理に関する整備を後回しにしがちですが、後に大きな代償を払わされることになります。
不正が起きにくい仕組みとは、すなわち日本からのコントロールが効いていること、「本社や上長が見ているよ」というサインを出すことです。そして、重要なポジションの人でも「社員は辞める」ことを前提に、管理システムを構築しておきましょう。業務を属人化させず、個人に依存することなく業務が回る仕組みをつくっておくことが大切です。
日本からはコントロールしようがない現地のローカルシステムでは、取引や業務がブラックボックス化して、不正を起こしやすい動機となります。マルチブックが提供するクラウド型会計・ERPサービスの「multibook( https://www.multibook.jp/ )」は、すべてのプロセスを「見える化」します。見られていれば不正が起きづらく、万が一の際にも不自然な変化をすぐに確認できます。見える化、つまり「本社や上長が見ているよ」という無言のメッセージが、不正の抑止力になるのです。
時間やコストをかけて採用した現地社員が、不正で辞めるようなことが起きてはあまりにも残念です。不正が起きると、関係者が皆不幸になります。会社も誰も不幸にしない良い企業運営を続けるには、楽ではありませんが、不正が起きない仕組みを考え続けること、不正が起きない・起こさせない仕組みづくりに組織で取り組むことが大切です。
なお、今回取り上げたアンケートの詳細は、以下よりご確認いただけます。
会社名:株式会社マルチブック
所在地:〒141-0031東京都品川区西五反田1-1-8 NMF五反田駅前ビル5階
設立:2000年9月
事業内容:海外経営への挑戦を身近に簡単にするクラウド会計・ERPサービス等の企画・開発・販売
https://www.multibook.jp/