COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。

最終更新日:2019/10/18 システム運輸業・倉庫業(3PL事業者)

物流におけるIoTを考えるVol.2 ~倉庫内におけるIoT~

2_2_1_38668718.jpg 「物流におけるIoT」をテーマに、3回にわたり現状と課題を考えるシリーズです。初回の「輸配送におけるIoT」に続き、2回目は「倉庫内におけるIoT」について考えます。

倉庫内のIoT活用分野は?

荷降ろし、検品、格納、ピッキング、仕分け、集積、梱包、ラベル貼り、配送へのつなぎなどなど・・・。倉庫内作業は実に多岐多様です。ECの進展やオムニチャネル化により、配送サービスメニューが増加。これに伴い倉庫内の業務対応も増え、作業はさらに多様化、複雑化の一途を辿り、人手が必要な作業に対して人員の確保が追い付かない状況です。これを解決するためのテクノロジーとして、「IoT」の活用が注目されています。

Internet of Things、すなわち物のインターネット化ですが、倉庫内業務においては人と物流機器(コンベア、フォークリフト、ロボット等)とモノの位置情報のモニタリング、人へのタイムリーな作業支援、機器のリアルタイム制御が主たる目的になるでしょう。作業効率を上げるためには、倉庫内では何がどこにあるかという位置情報が基本です。庫内MAPと商品のロケーション情報、人と物流機器の動きを確認、タイムリーで効果的な作業支援するための利用が現実的です。

ソリューションのひとつとして注目されているのが「RTS(リアルタイムロケーション管理)」。RFIDやGPSで大量のモノや人が倉庫のどこにいるかを見える化し、所在の把握に役立つ仕組みです。商品の所在が明確であれば、ピッキング作業の効率化が図れます。倉庫内のどこにどのくらいの作業者がいるかもリアルタイムで把握できるため、WMSとの連動で、受注データが入った段階で出荷作業にかかる工数や必要な人員情報を割り出すなど、次の工程へスムーズにつなげるための段取りを事前に組むことも可能です。

RFIDタグが更に進化することでモノの流れの多くをIoT化できるようになりますが、すべての個別商品がIoT化するまでにはまだまだです。今後半導体(センサー)の低価格化により、高度な物流支援・商品管理が広範囲に可能になることを期待したいところです。


ピッキングの効率化は進んでいる

ピッキング作業の効率化という点では、AIやデジタルマップによるナビゲーションシステムの登場にも注目したいです。ピッキングは、WMSなどから印刷される出荷指示書などに従い、商品を格納棚まで取りに行く作業です。従来は、広大な敷地に多数の棚が固定され、注文が入ったら人が足を使って商品を棚に取りに行くのが一般的でした。倉庫の規模、取り扱い品数や種類によって多くの時間や人員を要する、庫内でも最も負荷の高い業務といえます。

ピッキングの1作業工程にかかる時間の半分以上が、「歩く」動作だともいわれています。商品知識のある熟練者は「どこに何があるか」を経験的に把握しているため、倉庫内でモノを探し回ることなく最短経路でピッキングができますが、常に作業者が入れ替わる現場で、熟練者同様の生産性を確保することは難しいものです。商品の所在が明確になれば、ナビゲーションシステムとの連動で「モノを探して歩く」時間が削減され、ピッキング作業の効率化や生産力の標準化がはかれます。適正数での人員配置も可能になり、人員不足への対策にも効果が出ます。


IoTの原型は1970年代の日本の製造業にあった

モノの「移動」という観点からみると、物流の自動化の中核を担うのは、やはり自動倉庫や庫内の搬送システム(コンベア・AGV)です。実はIoTとモノの移動自動化の原型は、1970年代の日本の製造業にすでに見られます。製造現場(工場内)で完成品に仕上げるまでの一連の工程で、部品の搬送や製品の工程間移動は、それぞれにセンサーをつけて、庫内限定でIoT活用と同様の管理手法が行われていました。インターネットにつながっていなかっただけで、クローズドでのセンサー制御の仕組みは確立されていたのです。

1980年代後半の円高の加速から、製造業が急速に製造拠点を海外へとシフトしていきました。1990年代にインターネットが登場し、工場内のセンサー技術とインターネットがつながって、工場外で制御、可視化できるシステムが登場しましたが、その原型は日本のFA(ファクトリーオートメーション)にあったといえるでしょう。海外に生産拠点が出て行った跡地は物流センターへと転じ、FAの仕組みも物流倉庫の自動化へと進化します。物流の効率化といえば自動倉庫が主流となり、最先端の仕組みを整備する物流センターの建築には、年単位の構築時間や莫大な投資が必要となりました。しかし、投資を回収する時間よりも、マーケットの変化の速度の方が上回るようになります。そのため、身動きがとりにくい自動倉庫型から、倉庫内をフレキシブルに構築できるロボティクス型へと、物流倉庫の自動化も変化してきました。


Amazonのキバシステム買収とロボティクスによる自動化

その代表格ともいえるのが、2012年にAmazonが買収したKiva Systems(キバ・システムズ)の搬送ロボットです。EC躍進の先鋒となり世界の小売・流通マーケットを激変させ、物流革新をもたらしているAmazonは、配送センターの完全自動化を目指し、日夜ロボティクス技術の研究開発に余念がありません。そのAmazonが自社開発を断念し、2012年に7億7500万ドル(≒620億円 当時)の巨額を投じて米国のスタートアップであるKiva Systemsを買収したことは、当時大きな話題となりました。

このシステムの優れたところは、ロボットが「モノ」を出し入れせず、「モノを運ぶ作業」で活躍することです。ピッキング作業を例にとれば、WMSと連動してピッキングが必要な商品のある棚を、人が作業する「ステーション」と呼ばれる作業場まで、自動的に棚ごと運んでくる点です。ステーションで商品がピックされた後、頻繁に売れる商品を載せた棚はステーションにより近い位置に、ロングテール商品棚は遠くに運ばれます。つまり良く売れる商品は必然的にステーションに近い場所に置かれることで、移動時間が短く、効率的になります。また、ステーションに到着した棚から商品を取り出すときは、該当商品の格納位置も表示支援されるためモノを探す必要はありません。

Amazonは、これを「Amazon Robotics(アマゾン・ロボティクス)」と称し、日本国内においても2カ所の大規模FC(フルフィルメントセンター)に導入。少ない人員で多種多様な商品を取り扱い、配送までの時間を短縮する効果を上げています。これに追随するように、国内の3PLでも物流倉庫におけるロボティクスの導入が進んでいます。ロジザードでもご紹介している株式会社アッカ・インターナショナルが導入した中国製ロボットGeek+(ギークプラス)「EVE」なども、物流業界にインパクトを与えています。従来の物流自動化設備に比べれば投資額が少なく、荷主限定の制限も少なく汎用化できるため、今後ますますこうした搬送ロボットを導入する倉庫は増えるでしょう。


商品一つひとつのIoT化と情報共有が鍵

しかし、商品の仕分けだけはAmazonといえども人力に頼らざるを得ず、完全自動化の鍵を握るのは、最後は商品一つひとつのIoT化であると考えられます。そして、インターネットでつながることは情報のオープン化が鍵となり、自社以外にどこまで情報を広げていけるかがポイントとなるでしょう。クローズドで自社だけのネットワークに終わってしまっては、1970年代のFAのレベルと変わらない使い勝手になってしまいます。できるだけ情報をオープンにして、必要なデータを誰もが使えるようにすべきです。そうしなければ、本来のIoT効果を期待することはできません。

ECはまだまだ伸びる市場です。実店舗は減る傾向にありますが、「買い物体験=エンターテインメント」の場として完全になくなることはないでしょう。いずれにしても明確なことは、貨物はもっともっと個別化し、宅配需要はさらに増していくこと。倉庫内のIoT化がすすめば、受注データが入ったタイミングで出荷作業にかかる工数や配送手配までが算出でき、事前の段取りがスムーズになることで効率化が図れます。

物流におけるIoTの効果は、1社ではなく業界全体が享受できるものでなければ意味をなさないと、ロジザードは考えます。今はまだ難しいかもしれませんが、関係する業者間でシームレスな情報の共有が可能になれば、無駄な作業や時間を排除し人にかかる作業負担も激減、物流クライシスの解消につながると思っています。

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遠藤 八郎(えんどう はちろう)

ロジザード株式会社 会長・物流ITコンサルタント

1979年 創歩人コミュニケーションズ(ロジザードの前身)を設立。自動倉庫システムや無人搬送システムなどの物流情報システムの開発に長年携わり、日本で初めてWMSをASPで提供。常に最先端のIT化手法で、物流情報システムの革新に取り組む。著書に『物流現場のITセンス』(水曜社)、『物流ハンドブック』(共著 日本ロジスティクスシステム協会)、『物流効率化大辞典』(共著 産業調査会)、『すぐできる商品管理・物流管理』(共著 日刊工業B&Tブックス)。物流紙での連載、寄稿、および講演多数。

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