COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム

物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。

最終更新日:2023/03/13 EC・通販事業者在庫管理小売業(リアル店舗)

物流から得られる情報、物流データを使ったレポートの重要性

物流データ分析コラム Vol.2

昨今注目されはじめた「物流データの活用」。物流現場から得られる「物流データ」の重要性や価値に気付いた企業が、これを活用して物流現場の運用を改善し、物流をコストではなく企業の「強み」や「攻め」の武器に転じようという動きが始まっています。前回のコラムでは、物流改善に特化した物流コンサルタントとしてさまざまな現場の改善・支援をされてきたトランスフィード株式会社の長井隆典様の監修で、「物流データとは?」と題し、物流データの基礎と活用メリットを解説しました。今回も長井様に監修いただき、もう一歩踏み込んで「物流データをどう見るか?」をテーマに、物流レポートの重要性についてお伝えします。

在庫情報だけでなく、物流業務の見える化が第一歩

物流業務を「見える化」するフロー図

物流現場のデータでは特に「在庫情報」に着目して、自社の在庫がきちんと売上に貢献しているかを見ることが重要です。そのための指標やABC分析など、有効な分析方法はありますが、分析の前にまず、数字を共通言語に物流情報を見る、自分たちの物流業務を「見える化」することから始めましょう。

経営者ならば「実績」を見れば経営状態が分かりますが、倉庫ではどんな数字が見えていないといけないのでしょうか? 倉庫を管理する指標として、現場の管理者が見るべき数値は、実はあまり「見える化」されていません。倉庫運営で重要視すべきは、現場の生産性や物流品質、安全性など数字化しづらい項目です。しかし、これらを「数字」などの客観的な指標で見ることができないと、管理者やベテランスタッフの経験や勘など、属人的な判断頼みになってしまいます。ノウハウが貯まらないうえ、ベテランが辞めてしまったら現場が回らなくなるリスクもあります。


「自社の数字が見える」を当たり前に

まず、自社の物流業務を数字で把握し、業務ごとの「標準値」を見つけましょう。「業務の見える化」は、本来それほど難しいことではありません。今日は何人で何件の出荷作業を行ったかなど、日々の業務を「数字」でホワイトボードに書き出し続けることで、必ず標準値が見えてきます。

例えば、生産性は最も分かりやすい数字です。出荷件数が1日1人あたり200件ならば、1,000件に対して5人必要と計算で割り出して、人数調整ができるようになります。もしこれが見えずに、現場でできる上限数を理解していなければ、必ずムリ・ムダ・ムラの「3M」につながります。自社の標準値や上限数を把握するには、自分たちのリアルな数字を知ること。リアルな数字を日々蓄積することを当たり前の状態にして、数字を見続けることが大切です。


物流業務のルールを定める

しかし、実際にやってみると、業務ルールができていないと数字がとりづらいことに気付くかもしれません。定量的に生産性を図るなら、定性的な決まり事が必要なのです。例えば、入荷作業一つにしても、入荷検品から棚入れなど、個々の業務内容を全員同じレベルで認識できていなければ、数字が持つ意味もまちまちになります。定性的な業務ルールができていないと、定量的な管理はできません。まずどんな仕事があるのか、出荷業務であれば「ピッキング」、「梱包」レベルの単位で、業務を一度机上に載せ、それぞれのレギュレーション(ルール・マニュアル)を定めましょう。ピッキングにしてもトータルなのかオーダーなのか、軽いか重いか、事前予約か否か、など現場ごとにルールは異なるはず。ここを「見える化」することから始めます。


数字・業務設計・ミーティング、はじめの一歩を踏み出す

生産性の数値をとるには、業務設計とルール化・マニュアル化の両方を同時に行う必要があります。最初は大きな粒度からで構いません。そこから定期的な議論の場を設けて、ブラッシュアップしていきましょう。そうすると業務ごとに担当者のコミュニケーションが活性化されて、だんだん共通言語となる数字が見えてきます。

ブラッシュアップの場となる定期的な議論の場(社内の定例会)は、どのように始めたらいいでしょうか? 物流データの議論の場ですので、各業務の責任者的ポジションの方、エリア担当などを任されている方などの関係者数名で、どのようなデータならとれそうかをまずは出し合ってみましょう。システムなどは不要です。ゼロベースで、付箋、ホワイトボードのレベルからで大丈夫です。

物流は、「こうあるべき」論より先に、「こんなことで困っている」という課題が議題の出発点になることが多いものです。もちろんそれで構いません。例えば「出荷が遅い」という課題も、そもそも業務が遅いのか、そうではなく伝票出力のためのプリンタ速度が遅いのか、「課題を共有する」ことからその背景となる事象も共有することができます。課題解決まで目指そうとするとハードルは高いですが、「共有」をゴールに机上に出し合う、そこから業務の内容へと深掘りしていけばよいのです。


分析から予想・アクションまでの動きを迅速にするには「レポート」が有用

定例会では、継続して同じ指標の数字を追っていきましょう。そのために有効なのがレポートです。生産性を見るには、①業務設計、②数字をとる、③議論の場で共有する、の流れを継続していきますが、レポートがなければ比較ができません。最初はシンプルに、簡単な数字から継続して見ていけるよう、レポート化を進めていきましょう。

ただし、ここで即効性を求めてはいけません。数字はある程度の蓄積があって分析できるもの、見えてくるものがあります。最初の3カ月を比較してみる、そして半年、1年と継続して見ていきます。前年対比が見られない初年度は、見たい数字の業務を定義し、見える化することに注力します。2年目からは前年と比較できますから、アクションに対する成果が見えてきます。「前年対比」という概念が現場に生まれてくるまで、最低でも1年を超えるまではやり続けましょう。はじめの1年間で、現場が知りたい数字や業務内容を整理し、「見える化」していきます。

しかし、日々現場仕事で忙しい物流管理者にとって、レポート作成が負担になる懸念もあります。現場管理者のコア業務は「ヒト・モノ・カネ」の動きであり、数字を見ることではありません。数字をとることが大変なら心がめげて続きませんから、面倒な手間なく簡単に取得できる方法でスタートしましょう。

毎日数字をとるという地味な作業には、モチベーションが必要です。「なぜやっているか」が明確になっていると続きやすいもの。数字は良くも悪くも効果が見えて、コア業務の「ヒト・モノ・カネ」の動きが分かる、結果が出ます。アクションの効果が「見える化」すれば、モチベーションアップにつながります。評価やゴールを達成するためには、小さな成功が積み重なっているということがきちんと追えるレポートにすることが、継続のコツです。


柔軟かつ成長する組織づくりにつなげる

現場管理者のコア業務は、物流業務の整理・定義・ルールを決めて、いかに現場に柔軟性をもたせるかにあります。事業レベルが上がれば、同じやり方は通用しなくなりますから、変化に対応できる組織づくりを念頭に運営しなければなりません。その判断のためにも、数字を把握することは重要です。

現場も数字が共通言語になっていれば、数字を見ながら改善が可能です。「ここを●%改善したいからこれを試してみよう」、と目標も共有できます。現場はルーティンを変えることに抵抗がありますから、もし基準となる数字がなければ説得力がなく、改善への道は遠くなります。共通言語である数字があることで、柔軟性ある組織へと育成することが可能です。

従来は、経験や勘に頼っていた管理も、数字の裏付けを見れば法則性が見つかるかもしれません。異常値など数字の変化にも敏感になり、経験や勘、努力が数字と紐づけば、ノウハウとしての蓄積になります。働くスタッフにとっても、数字で成果が明確になることは励みになるはずです。成果が自分の存在価値を高め、離職防止につながるかもしれません。


まとめ

何事も課題に対して何かアクションを起こせば、何らかの変化は感じられるかもしれませんが、その効果は数字にしないとハッキリ見えません。物流業務も数字にして初めて、施策に対する効果が実感できるのです。物流の現場ではレポートがその役割を担います。小さな努力やがんばりが数字として見える、がんばりが見えると行動が変わり、好循環が生まれます。それが「レポートの力」です。
次回は、面倒な作業をすることなく、物流分析レポートを簡単に取得できる方法についてご紹介します。


本コラムにご協力いただいた物流コンサルタント
トランスフィード株式会社 代表取締役 長井 隆典(ながいたかのり)

EC事業会社におけるfulfillment(Logistics/CS/Studio/System)の統括マネージャーとして新規立ち上げと運用構築を多数経験。特にEC物流においては、部門を跨いだ課題可視化やKPI設計による物流戦略立案を担当し拠点統廃合及びWMS導入責任者を務める。2017年にトランスフィード株式会社を設立。荷主及び物流事業者として培ってきた経験をもとに、物流改善に特化したコンサルタントとして活動。主にフロー分析によるオペレーションの可視化やシステム導入による省人化を行っており、近年は管理者の育成にも力を入れている。
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