COLUMNロジザード ノウハウ EC・物流コラム
物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。
物流やEC(ネットショップ)、在庫管理に関連したロジザードのオリジナルコラムです。
在庫管理の基本的な方法から効率化するポイントをロジザードのノウハウ、ロジザードの視点でご紹介します。

政府が2050年までのカーボンニュートラル実現を宣言して、間もなく5年。産業界では、脱炭素化に向けた活動を具体的に進める動きが加速していますが、中でもこうした機運を高めているのが物流業界です。ここでは、全国各地で開発が急速に進む物流拠点にフォーカスを当てて、再生可能エネルギーを活用した環境負荷低減の取り組みについて考えます。
生産者から消費者へ荷物を届ける物流は、不可欠な社会インフラとして、持続的な機能強化が求められています。その一方で、カーボンニュートラルの実現という文脈で考えると、産業界でも脱炭素化の余地が大きな領域である、と認識されているのも事実でしょう。
それはなぜでしょうか。国内における貨物輸送の主役は、もう半世紀にわたってトラックが担っているからです。かつて鉄道が中心だった国内の貨物輸送は、高度経済成長期のモータリゼーションの急速な進展を背景に、より機動力の高いトラックへと移行したのです。
とはいえ、トラック輸送をめぐる脱炭素化は、各方面で進んでいます。トラックメーカーは、内燃機関の高燃費化と同時に、パワートレインの電動化を推進。環境に優しいトラック輸送の実現に向けた取り組みを、経営戦略に掲げています。
さらに見逃せないのが、輸送手段の最適な組み合わせによる脱炭素化、いわゆる「モーダルシフト」です。高速道路を経由したトラック輸送の一部経路を、鉄道や船舶に代替することで、排出ガスの削減に貢献する取り組みです。政府と輸送各社のタッグも奏功し、実績が出てきています。

輸送モードによる脱炭素化については、軽油など燃料消費によるガス排出を削減する取り組みが進んでいます。それでは、物流拠点における脱炭素化については、どんな動きがあるのでしょうか。
ここで、物流拠点におけるエネルギー消費について、整理しておきます。物流拠点は、荷物の仕分けや保管、検品などを担う場所です。作業スタッフがこうした荷物を取り扱うほか、管理する事務員の業務スペースもあります。そのため、作業に必要な明るさを確保する電灯をはじめ、作業環境の確保に必要な空調、荷物の保管方法に応じて、冷凍冷蔵設備や一定の温度管理に必要な機器、荷物の仕分けに必要なマテリアルハンドリング機器や昇降機など、あらゆる電源の確保が求められます。
かつては、倉庫と言えば、吹き抜けのスペースで多くのスタッフが荷扱いに取り組むイメージもありましたが、近年の物流拠点の就業環境は一変しています。事務機能はもちろん、荷さばきスペースでも作業効率の向上を促す設備が整っています。裏を返せば、それだけエネルギーを消費していることにもなるのです。
物流における脱炭素化について考える上で、念頭に置いておく必要があるのは、物流拠点の役割です。物流拠点の施設を運営する事業者が、入居企業に対してスペースを賃借契約によって提供しています。つまり、施設の運営事業者は、入居企業に「お客様」としてのサービスを提供する必要があることになります。
近年は、電子商取引(EC)の普及もあり、物流拠点での荷物の取扱量が急増。それに対応して、全国の高速道路のインターチェンジの周辺部を中心に、様々な規模の物流拠点の開発が相次ぎ、入居企業の獲得合戦がヒートアップしています。
一方で、拠点に入居する企業も、自社におけるカーボンニュートラル戦略に基づき、脱炭素化に取り組みを進めていく必要があります。とはいえ、自社の所有する建物や設備、車両といった資産についての脱炭素策を講じることは、一定の投資をすれば可能ですが、物流拠点のような賃借施設の場合は、自社だけの判断でこうした取り組みを進めることは難しいでしょう。
こうした両者の意向をマッチングさせる材料となるのが、物流施設における脱炭素化を可能にする環境負荷低減策なのです。施設運営事業者は、脱炭素の取り組みに注力したい入居企業に対して、再生可能エネルギーの活用など環境対応力を示すことは、付加価値の提供による競合施設との差別化につながるのです。
見方を変えれば、物流拠点の運営にあたって、事業者はこうした環境対応の進んだ施設を提供できることが、入居企業の誘致に不可欠なポイントになっているとも言えるのです。
ここからは、物流施設が導入を推進している脱炭素化の施策について紹介します。まずは、全国各地の物流施設で幅広く活用されるようになっている、太陽光発電システムです。
物流施設での太陽光発電システムの導入は、非常に効率がよいとされています。それは、敷地が一般的な建造物と比べて非常に広大で、さらに建物の屋根が平板であるためです。さらに、物流拠点は市街地や住宅地で開発されるケースはまれで、周囲に建造物が少ない立地条件が好まれる事情も、太陽光発電には有利に作用しています。
施設の屋根や駐車場に太陽光パネルを設置し、施設で使用する電力を自家発電でまかないます。発電された電力は、施設内の照明や空調、各設備の電源として使用するほか、フォークリフトなど構内輸送機器の充電にも利用できるのが利点です。
さらに、太陽光発電のメリットは、施設で使用しきれない余剰の電力を、周辺の電力網に供給できることです。こうした電気の販売による副次的なビジネスの創出、さらには地域貢献策として地域経済へのプラス効果にもつなげられるのです。
こうしたメリットは、入居企業にも恩恵となります。商品の保管や仕分けなどの物流業務における脱炭素化の実績を生み出すことができるため、企業価値のさらなる向上につなげることもできます。環境対応が企業の価値を測るものさしになっている中で、こうした物流施設での脱炭素化は、企業にとっても見逃せない経営戦略になっているのです。
太陽光に加えて、いわゆる自然由来のエネルギーとして注目されているのが、風力です。太陽光と比べると、立地条件がどうしても限られてしまいますが、一定の風力が継続的に見込める地域であれば、有力な再生可能エネルギーとなるでしょう。
物流施設の周辺に風力発電設備を敷設することで、エネルギーを補います。風力が安定している地域では、長期的なエネルギーコストを削減できる可能性があります。
とはいえ、風力発電は継続的なエネルギー調達手段としては、やや安定性に欠けるのが弱点です。もっとも、自然の力を活用したエネルギーの確保は、どうしても気象や立地の条件に左右されてしまいます。系統電力への依存を下げるなど、他の手段との併用による、最適な組み合わせを模索していくのが、施設運営事業者の歩むべき方向性なのでしょう。
物流施設では、梱包や搬送にかかる資材などの廃棄物が出ます。産業廃棄物として処理されるものもありますが、中にはバイオマスエネルギーに変換できるケースもあります。木材や食品などの廃棄物は、動植物などに由来する生物資源を、燃焼またはガス化することで、発電します。
入居企業の業態や取り扱う商材などによっては、有効な電源として機能する可能性があります。化石燃料への依存を下げていくためには、こうしたバイオマスエネルギーの積極的な活用も求められてくるでしょう。
こうした再生可能エネルギーの活用にあたって、課題になるのが、電源の選択を含めたエネルギー管理の最適化です。面積が大きく多様な機器を長時間使用する物流拠点におけるエネルギーの最適な活用は、施設運営事業者と入居企業の双方にとって、重要なテーマになっています。
こうした動きが広がる中で、注目されているのが、エネルギー管理システム(EMS)です。エネルギー使用をモニタリングすることにより、運用効率を最適化するシステムで、エネルギーコストの削減につながることから、多くの企業が導入を検討しています。
省エネの推進とエネルギー消費の最適化を図るための対策として、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを導入するとしても、それですべてのエネルギーをまかなうことは難しいのが実情です。現実的には、既に存在する資源で環境への負荷を最小限にしながら、効率よくエネルギーを使用することが重要になります。
EMSは、施設・建物全体のエネルギー消費を可視化して、エネルギー消費の効率化と最適化を図ります。照明や空調に加えて、ライン設備のエネルギー消費をモニターやパソコン端末で管理・制御できるFEMS(Factory Energy Management System)が、一部の先進的な物流施設で検討されています。
さらに、再生可能エネルギーを効率的に貯蔵し、夜間や需要ピーク時に使用可能な蓄電システムが進化すれば、太陽光や風力、バイオマスなど複数の再生可能エネルギーを組み合わせた供給モデルが構築されることで、再生可能エネルギーのさらなる安定供給も可能になるでしょう。
再生可能エネルギーを利用した充電ステーションを設置し、太陽光パネルを搭載した駐車場で配送車両を充電するシステムを導入する物流施設も登場しています。
車両の電動化については先述のとおりですが、こうした車両の普及には、充電設備の拡充が欠かせません。こうした再生可能エネルギー由来の充電インフラを物流施設内に敷設することで、持続可能な社会の創造に、物流の側面で貢献できるというわけです。
再生可能エネルギーは、排出ガスの削減と物流業務の効率化を両立できる手段として注目されています。導入には環境面と経済面の双方で、メリットと課題があります。
環境面では、再生可能エネルギーを導入することで化石燃料への依存を下げるとともに、物流拠点や輸送時の排出ガスの量を大幅に削減できます。
一方で、エネルギー生産設備の建設や運用を推進するには、エネルギーや資源が必要となります。こうした、一見すると矛盾しているように感じる取り組みが先行することから、短期的には環境への負荷が完全になくなるわけではありません。天候や自然条件、立地に左右される不安定さも課題になります。
経済面でのメリット創出は、長期的視点で考える必要があります。短期的には、太陽光パネルの設置など一定の設備投資を要しますが、長期的には、再生可能エネルギーの導入によりコスト削減を実現できる可能性があります。
物流拠点の屋根などに太陽光発電システムを搭載すれば、自家発電が可能になり、エネルギーコストの削減につながります。とはいえ、施設の運営にあたっては、システムの導入やメンテナンスといった初期投資とランニングコストの負担も必要です。中小の運営事業者や入居企業にとっては、決して小さくない負担となる場合もあるでしょう。再生可能エネルギーに関するシステムは常に技術革新が進んでおり、新たな設備への対応が求められることも課題になります。
ここでは、物流施設における再生可能エネルギーを軸とした脱炭素化の取り組みについて、考えました。
環境負荷低減は持続可能な社会の構築に向けて、避けて通れない命題であるのは、もはや言うまでもありません。とはいえ、具体的な取り組みを進めるにあたっては、継続的なコスト負担やエネルギー確保の不安定さへの懸念、他の投資案件との兼ね合いなど、考慮すべき事情も少なくありません。
とはいえ、物流施設における機能の維持・強化を図る上で、再生可能エネルギーの活用は、持続的な社会インフラを確保する観点から、さらに重要性を増していくと考えられます。最適な組み合わせを模索しながら、環境負荷の低減を図ることで、カーボンニュートラルの実現という目標を現実のものにすることができるのではないでしょうか。施設の運営側と入居企業の双方が、こうした認識を一致させることにより、物流業界は脱炭素化と機能の強靭化を両立できるのだ、と考えます。
この記事のライター
Shima N.
一般紙をはじめ各種メディアで取材・執筆活動に従事。
企業の広報・IR担当の経験も踏まえて、産業界の多様な領域に人脈を持つ。
運輸・物流領域に強みあり。