通販事業 ロジザードZERO
株式会社虎の穴
取締役 鮎澤 慎二郎様
流通管理課 今木 俊文様
流通管理課 戸田 和志様
関東・甲信越
同人誌、ラノベ、アニメ関連作品の通販サイト「とらのあな通販」を運営する、株式会社虎の穴様。ロジスティクス体制を内製で構築され、2018年からはロジザードZEROをご利用いただいています。大型倉庫で自社物流を貫く虎の穴様の戦略と、クラウドWMS「ロジザードZERO」が果たす役割について、お話をうかがいました。
鮎澤様
当社は1996(平成8)年の創業以来、インディーズコミック市場をリードしてきました。1万6000名を超える作家や造形・CGクリエイターが創作した作品を、直接販売する店舗および通販サイトを運営しています。2024年には流通総額が350億円を突破。これを支えるロジスティクス体制は、千葉に大型倉庫を構えて内製で構築しています。物流インフラやエンジニアを自社で所有し、小売業を超えた ECプラットフォーム企業として成長を続けています。
鮎澤様
1996年の法人化と同時期に、事務所内の約40坪のフロアを通販用の集荷場所にして、通販事業がスタートしました。当初は電話やFAX、後にメールで受注するやり方で、Accessベースの社内システムを自社開発して運用していました。このシステムで売上管理や商品マスター、移動情報、在庫情報を管理し、売上集計をもとに経理を通じて出品作家やサークルに支払う仕組みでした。物量増に対応し、2000年には亀戸に約800坪の物流センターを開設しました。
通販で最も実現したかったのは「予約販売」でした。市川の倉庫に移転した2008年頃は、まだECの世界には予約販売の概念が浸透していなかったと思います。ところが当社の店舗では、PCゲームやDVDなどの人気商品は予約販売のお客様で店がパンクするほどの状態でした。これを通販でも実現したいと、通販サイトに予約販売の仕組みを構築したところ、狙い通り爆発的に売上が伸び、通販比率は50%近くまで上昇しました。市川の倉庫は4,500坪あり、移転当初は必要以上に広かったのですが、空きスペースを活用して、2012年から女性向け専用通販サイトに着手し、新たなユーザーを獲得しました。また、大型イベントの在庫の受け皿にもなり、さらなる売上増加につながりました。
当社は、「毎度便」「おまとめ便」「書籍特典」ほか、コアなお客様ニーズに対応する独自の販売ルールがあり、スタートから今日まで受注から配送までの業務を一貫して自社で行っています。我々にとって通販と物流はセットです。
鮎澤様
2016年に流通総額が200億円を突破し、事業成長に見合った拡張性のある通販システムへの刷新が必要になりました。既存のシステムでは変更や改修の自由度が低かったためです。改善のために自分たちがやりたいことをスピーディーに展開できる仕組みにしたい、そのためにはWMSや自動化機器などのDX投資を進めるとともに、ベンダー依存ではなく自分たちでシステムを開発・運用をしていこうという考え方がベースにありました。
戸田様
従来のシステムは基本的に入庫・出庫の記録しかできず、理論在庫と実在庫のズレが頻発していました。例えば、在庫が「10」しかないのに数字として「11」と入力できてしまうことも要因でした。また、在庫情報の分析や解析もできなかったので、波動予測が立てられず、人員確保やコストも大問題でした。出荷量は日によって大きく変動し、数千件の日もあれば、翌日は1万件を超えることもあります。繁忙期には最大値に対応できるよう、1日100〜120人ほどを動員し、過剰な人員配置によって無駄な人件費が発生していました。
今木様
紙の問題もありました。納品書をすべて紙で印刷し、それをもとに発送ラベルを印刷する紙ベースの作業フローだったため、1日約4万枚もの紙を消費していました。僕らの仕事は毎朝、「●万枚の紙を印刷するぞ!」というところから始まりましたから(笑)。紙での運用だと、どうしても出荷速度が遅くなってしまい、これが効率化を損なっていました。
鮎澤様
すべての発送作業が手作業でしたので、従業員の負担は非常に大きいものでした。繁忙期は人海戦術で対応し、もちろん社員も動員しての24時間態勢で、箱詰めからラベル貼りなど、あらゆる作業をみんなでこなしました。社員自身が、「非効率な部分を是正しないといけない」と考え、DX投資に関する現実味のある改善提案が出され、改革がスタートしました。
戸田様
在庫精度が向上しました。ロケーション管理が可能になり、正確な在庫管理と移動履歴の追跡ができるようになりました。
また、システムと履歴データを活用した予測が可能になり、集荷やピッキングの予定を立てられるようになったことで、計画的な業務遂行が可能になりました。大きく変動していた出荷量も平均的な数量で安定させることができ、人員配置の最適化が図られました。繁忙期でも平均50~60名に半減し、瞬間的な増加にも80名程度で対応できるようになるなど、人件費削減に貢献しています。さらに、操作履歴や在庫履歴など必要なデータを出力できるため、業務分析や改善提案も容易になり、未来志向の物流システム構築に向けて前進しました。
今木様
ペーパーレス化を推進できました。従来は納品書を起点にラベル印刷をして梱包を行いましたが、ラベル印刷を起点にすることで、ペーパーレス化と出荷速度の向上を実現しました。紙の消費量は半分以下となり、年間で大幅なコスト削減につながっています。2022年にはデジタルピッキングを導入し、検品作業をなくすことで出荷速度は一段と向上しました。また、自動集荷処理(ロジザードZERO標準機能である引き当て処理)を活用し、出荷指示書を自動出力できるようになりました。以前は受注ごとに出荷指示が発行され煩雑でしたが、現在は受注情報が統合され、1日1回のみの発行に。夜間にピッキングリストが作成され、朝には出力されているため、出社後すぐに出荷作業がスタートできる環境が整いました。
今木様
冒頭で鮎澤が話したように、当社の通販は「おまとめ便」など、ユーザーニーズに対応してユニークな発送形態があるため、業務要件に合わせてほぼスクラッチで開発していただきました。ロジザードZEROの標準機能とオリジナル機能の区別は、意識せずに利用しています。ロジザードZEROの標準機能は日々進化していて、当初は自社側で未実装だった機能を追加で取り込んだケースもあります。
戸田様
導入は前システムのトレースから始めました。UIが変わったため最初は少し混乱しましたが、基本的な業務フローは大きく変わらなかったため問題ありませんでした。切り替え後には在庫履歴や詳細データをすべて確認できるようになり、そこからロジザードの担当である石田さんと「こうした方が良いのでは」と相談しながら、さまざまな改善を進めることができました。
今木様
ロジザードZEROを導入したことで、以前から変えたいと思っていた環境整備が一気に進み始めました。デジタルピッキングの導入を見越してWMSを選定した経緯もあり、ロジザードZEROを起点にできることが次々と広がっています。業務改善も着実に進み、出荷量は増えているにもかかわらず、EC発送に関わる社員数はピーク時からほぼ半減、業務効率の向上を実感しています。よく活用しているのは履歴ダウンロード機能です。時間ごとの実績集計を出し、在庫に不一致があれば棚取履歴や引き当て状況を確認します。さらに、そのデータをExcelで分割・加工し、次の改善のきっかけにつなげています。
鮎澤様
当社は、通販と物流を一体化させた柔軟なシステム運用を目指しています。ロジザードZEROの導入で、今後のユーザーの変化やニーズに応じた通販機能の改修や新機能の追加が容易になりました。成長する事業規模に対応できるシステム基盤が整ったと感じています。
鮎澤様
市川の倉庫は4階建てで特殊な構造をしていたこともあり、移動に時間がかかる、広さに対してデッドスペースが多いなど非効率な面がありました。そもそも我々のビジネスは適正な在庫運用が基本であり、そのためにも通販と物流は限りなく一体でありたい。その目的で、物流運用を効率化できるワンフロアの環境を整え、AutoStoreによる自動化を目指しました。
今木様
導入時からロジザードさんには当社の通販物流に寄り添っていただき、基礎はロジザードZEROで成り立っています。利益にならない相談にも忖度なく意見をいただけますし、当社独特の販売方法や課題を理解した上で、「変えるべきか/変えないべきか」という根本的な方向性まで提案していただける点は非常に心強いです。使い勝手にも満足しており、移転に際してWMSをリプレイスする発想はありませんでした。
鮎澤様
その通りです。通販の新機能はほぼ物流が絡むため、開発は文字通り一体化しています。物流は会社の血流であり、迅速かつ正確に流すことが第一です。モノが動かなければ売上は立ちません。例えば同人誌が入荷しても、物流が滞れば店舗にも届かず、ましてや通販では致命的です。そのため、通販システムは物流とセットで開発しています。
物流現場は作業動線の10cmの違いでも効率が変わる世界といわれます。当社はそこまでの探究はまだまだですが、独自色の強い運用ながらも生産性は維持できています。柔軟な体制で、現場からの改善提案も多く上がってきます。
今木様
社風も影響していると思います。課題があれば全員で知恵を絞り、ロジザードさんにも知恵をお借りする。そしてチャレンジします。これほど自由度が高く、柔軟に取り組ませてくれる会社は少ないと思います。当然コスト意識は持ちつつですが(笑)。
鮎澤様
生産性とコストとのバランスは前提条件です。当社は物流が本業ではありませんが、コストと見合えば物流にも投資します。特に問題解決につながる投資は、早く実行したい。判断が1カ月遅れれば、その分コストも無駄になるからです。当社のビジネスは「いつ何が入ってくるか分からない」という不確実性が高い環境がベースです。だからこそ、確実性の高い投資判断はスピーディーに行い、短期間でトライ&エラーを繰り返し、問題がなければさらに投資します。物流投資をここまで前向きに捉える販売系の会社は少ないかもしれませんね。
鮎澤様
通販がメイン事業に成長した今、次のテーマは「いかに付加価値を付けるか」です。通販のフロントは稼働から8年が経過し、現在のユーザーに適しているかの見直しが必要だと考えています。初期の仕組みがうまく機能していない部分もあり、再検討の時期に来ています。コロナ禍を経て、お客様の購買行動は変化し、スマホ比率は80%に達しました。フロントを変えるとバックエンドも連動して変える必要があります。
特に実現したいのは「フロント決済」への移行です。現状はバックエンドで最終決済を行うため、集計 → 決済 → 荷姿(配送便)決定 → 送料決定という工程を踏みます。この仕組みでは、クレジット決済が通らないと出荷が止まり、ミスや返金が発生することがあります。決済後に荷姿が決まるため、メール便から宅配便への切り替えなどが発生すると理解の齟齬が生じ、クレームにつながることもあります。さらに、複雑な画面推移によって離脱も多く見られます。フロント決済に移行すれば、後工程がシンプルになり、ユーザーに分かりやすい購買体験を提供できるので、通販と顧客の変化に合わせ、フロント・バック両面を刷新していきたいと考えています。
加えて、事業領域の拡大も視野に入れています。特に3PL事業への参入を検討しており、人材の登用も進めています。
今木様
3PL事業に関して、WMSをどのように活用するかという議論を進めているところです。3PL事業の経験者が入社することで、今後、具体化が進む見込みです。3PLの構想についても解像度が高まりつつあるため、本格的に事業化を進める段階で改めてロジザードさんには相談に乗っていただきたいと考えております。これからもよろしくお願いいたします。
取材日:2025年8月7日
通販サイト「とらのあな通販」において、主に同人誌/ラノベ/アニメ関連のオンライン販売で、2024年には流通総額が350億円を突破。千葉県に大型倉庫を構え、内製物流のロジスティクス体制を構築している。物流インフラや自社エンジニア体制を持ち、純粋な小売業を超えたECプラットフォーム企業として成長中。
社名 | 株式会社虎の穴 |
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代表 | 代表取締役 吉田博高 |
設立 | 1996(平成8)年7月22日 |
本社所在地 | 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-5-12 聖公会神田ビル 4F |
八千代事務所 | 〒276-0013 千葉県八千代市保品1809-1プロロジスパーク八千代1 2F |
事業内容 | 漫画・玩具・個人出版物・アニメグッズの仕入・販売・流通業務 創作と発信に関するWEBサービスの企画運用 |
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